ニュース・活動報告

被害者の視点で考える「裁判員制度」と「被害者参加制度」

 平成11年に始まる司法制度改革のあゆみの中で、最大の論点であった「裁判員制度」がようやく本年(平成21年)5月21日より開始されます。しかし、長年の議論にもかかわらずいまだに反対意見も根強く、今後の刑事裁判のあり方に不安を残しています。

 裁判員制度のグランドデザインが進捗する一方で、平成16年12月に成立した「犯罪被害者等基本法」を受けて、「被害者参加制度」がすでに昨年(平成20年)12月からスタートしています。報道等で知るところでは交通事故、傷害事件での参加が実現しているようですが、殺人事件での遺族の参加は今後、裁判員制度の開始に合わせて検討されるのではないかと考えられます。
 前者に比して短期間の議論で成立し実現された被害者参加制度は、刑事裁判に失望してきた被害者の長年の悲願であり、強い働きかけの結果と言えますが、反対に裁判員制度は司法界の要望から始まったことに大きな違いがあるように思います。
 殆どの国民にとって、刑事裁判の法廷はTVドラマのセットでしかなく、生涯自分には無縁なものだと考えているでしょう。私たちも、かつてはそうでした。しかし最近の裁判員制度を意識した殺人事件の公判では、これまで漠然としていた問題点(現実)が明らかになり、被害者の被った被害の全てを把握し、犯罪者を正当に裁く責任の重さを突きつけられ、多くの国民が困惑し躊躇しているように感じます。

 重大犯罪の審理に市民が携わる裁判員制度は、当初被害者の参加を想定しておらず、裁判員への説明を十分に行えば従来の判決、量刑とかけ離れるものではないと考えていたかもしれません。しかし被害者参加制度が始まり、被害者から被告に対する厳しい質問や量刑意見が続き、また江東区の隣人女性殺害事件のような人間の想像を超えた残虐な犯罪に対する世論の厳しさが、裁判員の判断にどれほど影響するのか予測できない状況です。「被害者が厳罰を求めすぎると、裁判員の判断が引きずられる」「被害者の感情的な意見が被告の更生を妨げる」と危惧している弁護士側も、今後は被害者や遺族の気持ちに配慮し、被告の反省と矯正の可能性をどのように訴えていくかが重要になると思われます。

 被害者や遺族が法廷での被告の発言により、二次的な精神的ショックを受けることは十分にありうることです。事実、これまでも傍聴席の被害者や遺族に向かって暴言を発した凶暴な被告も珍しくなく、精神的な後遺症に苦しむ被害者も少なくありません。しかし、これまで司法の高い壁に跳ね返され、己の無知・無力に苦しみ続けた犯罪被害者、遺族、その家族等においては、新たな制度の下に検事と接する機会が与えられ、同一の目的意識に立ち説明を受けること、相談することが可能となるのです。また資力の無い被害者が委託できる国選被害者弁護士制度も設けられ、真実の究明、正当な量刑、被害の回復に大きく近づくことは、何の犠牲にも変えられない重さがあるのです。

 裁判の公平性に疑念を抱く人々に対して、被害者等特に遺族は、ただ感情的に無理を通そうとして参加するのではないことを明確にしておかねばなりません。私たちポエナの会は、以下の意見を持って裁判員制度に参加することを訴えます。

  1. 命の権利は亡くなった被害者に在ることを知り、あくまでも代理として参加します。
  2. 犯罪の立証をするための証言が最大の目的であり、正当な判決が出されるために参加します。
  3. 残酷な映像を公開する場合は事前に遺族に説明の上、了承を得ることが必要であり、遺族の意思によって退席することを可能にしなければなりません。
  4. 遺体をバラバラに切断することは、亡き被害者への最大の侮辱であり、権利を踏みにじる行為です。これを残虐性が無いと判決する裁判官もあり、こうした裁判こそ遺族が直接訴えることが必要です。
  5. 刑の執行により矯正教育が始まり、その中で反省と謝罪の意味を考えるものであり、裁判において被告の「謝罪」が量刑に影響するべきではありません。
  6. 犯罪者と親の責任を明確にし、賠償責任を果たすことにより「更生」の可能性が認識されます。加害者からの賠償を徹底し、再犯を許さないためにも「更生」が判決に考慮されることは必要であると考えます。
  7. 遺族は「まず死刑ありき」の目的のみで参加するのではなく、亡き被害者に代わって真実を冷静に受け止め、正当な判決を求める判断力を持って参加する必要があります。
  8. 殺人、傷害致死、危険運転致死、現住建造物等放火、身代金目的誘拐罪などが対象に上げられていますが、「ひき逃げによる死亡」「重度の障害、脳障害が残る」事件も対象となるよう求めていきます。
  9. どのような重大犯罪においても、事件当時の犯罪者の精神状態は必ず論点になることから、殺人を犯した触法精神障害者の簡易鑑定による不起訴を廃止し、全て裁判で審理が行われることを求めていきます。

 100年遅れているとされた日本の刑事訴訟は、「被害者参加の裁判員制度」という欧米にも少ない独自の制度を誕生させました。これまで三権の中で最も国民から遠かった「司法」が、新たに多額の血税と奉仕を求めて裁判員制度をスタートさせるからには、全ての国民の関心となり、学校や家庭での教育に活かされ、一人一人が犯罪や不幸な事故から生活を守れる社会への転換の第一歩となることを心から願っております。

2009年4月2日掲載


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