ナイトサファリ

視察日:1997年4月2日(水)


施設の概要

場所−−−シンガポールの島の北部、市内中心部からタクシーで20分くらい
面積−−−パーク面積40ha
開業時期−1994年6月
営業時間−日没から24時まで(レストランやショップは18時30分から)
入場料−−大人18.45ドル、子供12.3ドル、トラム込み

施設の特徴

夜行性の動物を集めた、夜だけ開園する動物園。動物の数は約100種類、約1000頭(熱帯に住む動物の90%は夜行性)。広大な夜のジャングルを、まずトラムに乗って見学し、その後は希望者はトレイル(歩行観覧)のコースも楽しめる。シンガポールで一番人気の観光スポットとなっている。

アトラクション&ショー

 食事&切符購入

「日本語トラムは混雑している」との情報を得たため、まだ暗くなる前の17時35分にタクシーで到着。人影まばらで、まだ開園していなかった。18時の開園後、まずビュッフェスタイルのレストランへ。大人2人+子供1人で65.71ドル、安くはない。ガイドブックには「アフリカ料理」とあったが、シンガポールらしい中華メインの無国籍料理風で、味は並レベル。レストランの他に食事ができる施設は、モスバーガー1軒のみ。

18時45分、食事が終わる頃、チケット売場に人が並び始めたので移動。19時にチケットが販売開始され、その10分後にはチケットを入手していたが、3便目の日本語トラムで19時50分発。どうも、1便目と2便目は、日本語ツアー会社が席を独占している模様。なお、当日の日本語トラムは、7時30分、40分、50分、8時15分、25分、35分、9時、9時15分、9時30分の計9便。日本語ガイドは3人しかいないようだ(所要45分なので、計算が合う)。

日本語トラムの出発までに1時間近くあるので、ショップを見学。シンガポールは先進国であり、建築デザインなどでは日本よりも先を行っているかのように見える(地震の問題などで日本よりも有利なのかもしれない)ほどだが、ショップの商品もデザイン的に洗練されているものが多い。そもそも、ナイトサファリのマーク自体が、なかなかかっこいい。

チケット売場の行列は見る見るうちに長くなり、トラム乗り場も大混雑で混乱気味。係員がいくつもの言語で、必死に客を誘導している。運営レベル的には綱渡りの状態だが、客は総じて好意的であるため、何とかなっているように見える。

 トラムツアー

トラムは、16人から20人くらい乗れる車両が、4両か5両が連結されて、1編成となっている。英語トラムは1編成ずつ出発していくが、日本語トラムは2編成が同時に出発。2編成に1人しか、日本語ガイドがいないためだった。ガイドの音声は、マイクを通じてトラム天井部のスピーカーから流れるので聞きやすい。それほど流暢な日本語ではないが、日本語であるだけでありがたい。ただしトラム2編成では長すぎて同時に同じ動物を見られないため、ガイドは「前のトラムのお客様、右手は・・・」とやったらすかさず「後ろのトラムのお客様、左手は・・・」と大忙しである。
動物たちの生活を脅かさないように、ナイトサファリの場内照明は7ルクスに抑えてあるとのこと。トラムの車内に照明はなく(非常用照明はあると思うが)、フラッシュ撮影も当然禁止。たまにやや明るい場所もあるが、場内はほとんど真っ暗に近い。そして動物の手前には柵がない。地形を生かしたり、堀を設けたり、また客から見えない部分に柵を設けている部分もあるらしい。ということで、深夜のジャングルを進む、という雰囲気は十分。

暗い照明の中に、ほんのりと動物が浮かび上がる。明るい光の中で見る動物とは、全然イメージが違う。草食動物、特に鹿の仲間が多いが、それですら、ちょっと近寄りがたい雰囲気。インドサイも、じっとしているが、恐ろしく見える。そして肉食動物のコーナーでは、闇の中で目だけが光ったりすると、身の毛がよだち、背中がすっと冷たくなる。「あいつはこわい!」と、身体のどこかで本能が叫んでいる。3.2km、約45分間のトラムは、充分すぎるほどに見応えがある。

 トレイルツアー

20時40分ころ、トラムを降車。トレイルコースへ進む。大半の客は、トレイルコースへは進まないで退園していくので、人影はまばら。トレイルコースの小道もかなり暗いが、足元を照らす明かりは少なくないので、目が慣れてくると普通に歩ける。他の客のシャツの白さがほんのりとでも見えているうちは、まだ安心して歩けるが、前にも後ろにも誰もいなくなると、果たしてこの道であっているのか、この暗さではやはり心細くなる。

すべての動物を見るためには、トラムに加えて、3コースあるトレイコースをすべて回る必要がある。トレイルコースの総延長は2.8km、所要時間は45分以上とパンフレットにあった。標準的な歩行速度(分速80m)で割ると35分で回れることになるが、それだとどこにも立ち止まらないことになる。小学校1年生の娘と手をつないでのんびり歩いたら、途中の休憩10分を含めて1時間くらいかかった。
トレイルコースにも、たくさんの動物が配置されていて、充分に楽しめる。トラムと違って、エンジン音すらしない、まったくの静寂の中で動物を眺められるので、臨場感はトラムよりはるかに上。ただし、途中にはアップダウンもあるので、けっこう疲れる。コースのほぼ中間地点には飲物売店とトイレがある休憩所があり、助かった。

トレイルコースを歩き終えて、21時40分。さすがにこの時間になると、トラム乗り場もかなり空いている。最終チケット販売は23時15分、これだと23時15分にトラムに乗って、降りたら閉園時刻の24時ちょうどになる。

物販

もう22時になろうとしているのに、ショップは大盛況。ナイトサファリのマーク入りのTシャツがかっこいい。大人用3枚と子供用2枚買ったら、子供用1枚分の18ドルを値引きしてくれて、90ドル。スーベニールブックは7ドル。品定めはトラムに乗る前に充分してあるので買い物は10分で終わり、21時50分に退園。ゲート前にはタクシーがたくさん客待ちしていた。

全体的な印象としては、見る・食べる・買うの3つの機能が高い次元で揃った(しいて言えば、レストランがやや弱いが)、極めて完成度の高い、良くできた集客施設である。リピーター獲得力も低くはないと思われる。

備考

 施設のキャパシティ

1便2編成のトラムで200人乗れるとすると、日本語トラム1日に9便だから、1日当たりの日本語客対応力は1800人。全体としては、トラムは5分に1便程度の頻度で出発していたので、19時から23時までの4時間に48便。すると、1日当たりの収容力は4800人、意外に少ない。本当はもっと便数が多いのかもしれない。

 企業協賛システム

いくつかの動物名看板には企業名が表示されていた。協賛している企業の数は、全部で10社程度。

 ナイトサファリとシンガポール動物園

隣接するシンガポール動物園も、オランウータンとの朝食、アニマルショー、記念写真サービスなどイベントに力を入れており、ナイトサファリと同様に来場者サービス強化型動物展示施設となっている。トラムもある。おそらく、ナイトサファリはシンガポール動物園の一部門であろう。シンガポール動物園の営業時間は8時30分から18時までであるので、トラムと解説スタッフは、ナイトサファリとシンガポール動物園で共有しているものと思われる。それだけでなく、動物飼育スタッフや園内運営スタッフも基本的に共通であろう。昼の部と夜の部の2部制で営業すれば、効率的な経営が可能となり、収益力が高まる。知恵で時代を生き抜いてきたシンガポールらしい、素晴らしい工夫であると思う。

 施設のコンセプト

トラムの解説スタッフは、「ナイトサファリは、単に夜行性の動物を集めただけではなく、絶滅寸前の動物を集めた動物園でもある。私たち人類は、全地球的な視点から、絶滅寸前の動物を保護していかなければならない」ということを強調していた。このことは、どのガイドブックにも紹介されておらず、園内説明パンフレットにも書かれていない。しかしこのことこそが、ナイトサファリから観客へのメッセージだ。「絶滅寸前の動物を保護する気運を高めよう、そのためには何をしたら良いのだろう?」という問いに対して、ナイトサファリは自らの姿でその正解の一つを明確に示している。この点でも、シンガポーリアンのインテリジェンスを感じた。

 バスツアーによる来園

日本語定期観光バスを利用すると、送迎がセットされているが、割高になる。JTB日本語定期観光・マーライオンバスは、ナイトサファリ夕食付が大人120ドル、子供80ドル、17時30分から22時。パンダバス日本語定期観光バスは、ナイトサファリ夕食付が大人85ドル、子供50ドル、食事なしが大人65ドル、子供35ドル、18時から22時。ツアーで来た観光客は19時から20時ころのトラムに乗り、21時くらいには退園していたため、トレイルを楽しむ時間的余裕はほとんどないものと思われる。

 為替レート

視察日の為替レートは、1シンガポールドル83.5円、入場料を日本円換算すると、大人1541円、子供1027円。

企画のネタとして

 全体的な印象

見る・食べる・買うの3つの機能が高い次元で揃った(しいて言えば、レストランがやや弱いが)、極めて完成度の高い、良くできた集客施設である。リピーター獲得力も低くはないと思われる。

 日本での実現性

短期間のイベントとしてナイトサファリを呼んでくる、というのは、広大な面積が必要であること、輸送や検疫だけでなく、動物たちが環境に慣れる時間も必要であることなどから、とうてい不可能。日本に持ってくるとすると、恒久施設でしか有り得ない。それ以前に、日本では会場の建設費(用地費を含む)が膨大であろうから、独立した事業としては成立しないと思う。

とすると、国や都道府県の予算を引っ張ってきて、何かの記念に建設するしか方法がない。ここで思いつくのは、愛知万博。2005年に開催される愛知万博は、「新しい地球創造:自然の叡智」をテーマとし、地球と人間の関わりについて考え提案する博覧会となるらしい。仮設パビリオン(会期後に膨大なゴミとなる)が立ち並ぶ従来型博覧会とは一線を画し、長期的地域整備と一体となった会場づくりが進められるとのこと。だったら、このナイトサファリをそのまんま海上の森に持ってくる、というプランは、あり得る気がする。施設は博覧会の一環として博覧会予算で建てて、開業後はなんとかランニングコストを自力で稼ぎ出す、という方法なら、予算的には実現できるかも。

しかし問題は、日本の気候風土がシンガポールとは大違いであること。熱帯動物を集めるならば、暖房が必要となるかもしれない。暖房した巨大なドーム空間をいくつも建て、それらをトラムにのって回る、という方法では、ランニングコストがかかりすぎて、おそらくものすごい赤字になってしまう。日本の気候に耐えられる動物(温帯動物が中心、それに寒さに強い熱帯動物と暑さに強い寒帯動物)を集めるならば、暖房は不要だが、動物たちの顔ぶれが魅力あるラインナップとなるのか、また動物たちは元気に活動してくれるのか(寝ている、あるいはじっとしている動物なら、そのへんの動物園にたくさんいる)、このあたりが要調査である。

参考資料 −−− 園内マップ(146KBのGIF画像)


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