コラム・会員の声

コロナ自粛下での活動に思う

犯罪被害者家族の会ポエナ事務局

 2020年1月末から始まった新型コロナ感染は、4月〜5月の「完全自粛」を経て、ようやく学校・職場が再開され、やれやれ、これで夏が来れば少しずつ落ち着くだろう・・誰もがそう期待し我慢して、とうとう半年が過ぎてしまった。しかしながら治療も予防も儘ならぬ現実は変わらず、毎日毎日感染情報に不安を煽られ、気が遠くなるような猛暑のマスクに耐えながらも、漠然とした不安な空気が重く、方向性の定まらぬ暮らしが続いている。

 私たちの活動も当初、5月GW明けから再開するつもりであったが、会場、会議室として利用している公共施設の使用中止、参加者の移動による感染予防のため、今現在も再開に至っていない。空想でしかなかった「未知の感染症パニック」が、21世紀の自分たちの身の上に突然襲いかかり、いかにこれまで無防備に呑気に暮らしていたかを思い知らされた。私たちのようなささやかな活動すら休止するしかなく、「コロナ」の前では「不要不急の活動」の一つでしかないのだと落胆し、思い知らされたのである。

 大きな洪水・水害によって多くの人命が失われ、長年積み上げてきた財産、思い出を失ってしまったとしても、遠く離れた地域の人々にとっては「他人事」であり、コロナの情報(ウワサ)に取り憑かれた人々は、「それどころではない」のが現実だ。ましてや個々の犯罪・事件について関心も薄く、TV、新聞での事件報道、裁判報道ともに極端に減少している。彼らが声高に叫んできたこれまでの正義、人命の価値は儚い。

 被害者にとって世論を味方にすることこそが正義への唯一の道であり、大きなリスクを負ってもマスコミの取材を受け、署名活動を続け、積みあがった名簿を法務省に提出することが「活動」であった。その重要性は今も変わらないが、環境が大きく変わりつつあることは薄々感じていたはずである。誰も経験したことのない「完全自粛」の世界は、人々の移動が困難となり、リモート、テレワーク、オンラインという言葉を一気に拡大・浸透させ、すべての世代でインターネットが最も身近な情報ツールだと思うようになったかもしれない。「コロナ」はその変化の実体を、私たちの目の前に劇的に見せつけた「時代の転換点」として未来に記憶されるのだろうか。

 当然、社会に訴える場所をインターネットに見出し、チャレンジする被害者も増えつつある。実名で行動する覚悟があれば、直接訴えられるSNSは極めて有効かもしれない。信じられないほど迅速に、スマホやドライブレコーダーからの情報を入手することも可能であろう。他方TVは相変わらず「被害者の涙」、「無力な被害者」の演出に執着する一方で、被害者の訴え、主張を深掘りすることなく、SNSからの映像を引用、垂れ流し続けているのが現状である。もし被害者・遺族が匿名を望み、メディアが顔を映さない画面・紙面が定着すれば、報道の力は次第に弱くなっていくだろう。
 一方、次第に人々はインターネット空間という世論に参加できる場の魅力に吸い込まれ、相互に監視する社会を肥大化させつつある。何年もかけて集めた署名よりも、一瞬にして書き込まれた膨大な投稿によって政治は反応する。今やマスコミの報道はネット社会の後追いであり、日々ネットの反応を怖れ、見えない顔色をうかがいながら慎重に言葉を選んでいる様に見える。

 これからもSNSを通して、個人で立ち上がる被害者は確実に増えていくと思われる。これまでの活動は金銭的、労力的、何よりも時間的に大きな犠牲を覚悟しなければならなかった。その壁をいとも簡単にクリアできる。さらに「高齢化」という問題を抱えた現状の被害者団体に対し、若い被害者が中心となって声を上げ、新たなネットワークを創出していけるかもしれない。
 しかし、これまでメディアのフィルターを通して報道されることにより、被害者個人への直接的な攻撃から守られていたことも否定はできない。市民の怒りは「そんな報道をしているTV局、新聞、週刊誌が悪い!」のであって、大多数は被害者との直接的な接点は無く、一部の悪質的な中傷・嫌がらせ等はあったものの、警察や弁護士、支援団体等の援助を受けつつ、苦労しながらも個人、家族の生活が守られてきた。
 ネット上で賛同するコメントに勇気づけられ、さらに膨大な数の広がりを目の当たりにできるとしたら、まさに夢のようである。とはいえ、どのような事件の被害者であれ、否定的な数も相応にあることを覚悟しなければならない。「匿名」の書込みが許されるからこそ、誹謗中傷、デマの嵐に追いつめられるかもしれない。すべて「自己責任」で片づけられるとしたら、より甚大な二次被害、三次被害を生み出し、場合によっては新たな犯罪の温床にもなりかねない。

 私たちが向き合ってきたような重大事件の被害者であればこそ、性急な発信の前に慎重に準備、検討を重ねるべきであり、「正義の発信」としてチャレンジできる環境、法整備を要求していくことが、これからの被害者支援活動の重要なテーマとなるだろう。
 自粛期間中もいくつか取材のお申し出を頂いたが、現状すべてお断りせざるをえず、また今後の予定も流動的であり、再開の見通しも明言できない。「コロナ後の社会」はどう変化しているのだろう。今は私たちができること、やらなければならないことを、考える時間なのだと受け止めている。

2020年8月1日
犯罪被害者家族の会ポエナ 事務局
前のページへ戻る