コラム・会員の声

事件を振り返って思うこと

古館恵美子(埼玉医科大学抗がん剤過剰投与事件被害者遺族)

 今まで事件のことは提言・主張で何度か書いていますが、18年が経って改めて現在の気持ちを書いてみたいと思います。

 事件はある日突然起こりました。2000年10月7日高校2年生だった娘が、入院10日あまりで亡くなりました。主治医からは病死との説明を受け、元気だった娘が亡くなるはずがない。おかしいと思いながらもその時は、主治医の言葉を信じるしかありませんでした。
 娘を自宅に連れて帰り、しばらくすると病院の幹部が追いかけるようにして自宅にやって来ました。抗がん剤の過剰投与があったと明かされたのです。そして、病理解剖を要求されました。医療過誤を起こした病院に、死因を隠蔽されてしまうと直感した主人は、110番通報しました。

 捜査は、始まっていましたが主治医一人だけの責任で終わらせないよう、事件の全貌を明らかにし責任追及を明確にするため10か月後に刑事告訴をしました。
 立件されるまで2年近くの月日を要し、専門性が高い医師の犯罪は捜査が難しいのだと実感し苦しい日々が続きましたが、テレビ、新聞の取材を受け報道されることにより、事件の風化を防ぎ関心を持ってもらうことで、量刑が重くなるよう訴え続けました。正義感の強かった娘に、背中を押されたような気がします。多くの人に事件を知ってもらうことで、前向きになれ、心のバランスが保たれていました。一方で被害者の会に参加して、自分のことを話したり他の被害者の話を聞くことにより癒され、裁判の情報なども得ることができました。

 事件後、病院は、怖くて二度と行きたくないところになり、人間不信にも陥りました。弁護士の勧めで精神科を受診することになったのですが、その時の医師は、『私はこういう事例は、わかりません。薬は怖いでしょうから出しません』と言いました。正直に言ってくれたことで、気持ちが楽になり救われる思いでした。やっとまともな医師に会えたことで、精神状態が正常な方へ向かうことができたのではないかと思います。嘘の説明ばかりする医師が現実に存在したこと、そして現在も医師を続けていることに恐ろしさを感じます。

 月日が経っても被害者は、完全に立ち直ることはないと思います。受けた心の衝撃が、あまりにも大きいからです。落ち込んだり、普通でいられる時もあったり、それを繰り返して時だけが過ぎて行き、心の中は時間が止まっているのです。

 被害に遭われた方で、解決していないことや疑問に思っていることなどがありましたら一歩踏み出して話してみませんか。
 ポエナが、少しでもこれからの生きる力になれればいいと思っています。

埼玉医科大学抗がん剤過剰投与事件被害者遺族
古館恵美子
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