コラム・会員の声
話を聞くだけで良いのです
くらこ(漫画家・今田たまアシスタント)
はじめまして、『くらこ』と申します。
私は犯罪被害者本人でも家族でもありません。
こちらのサイトでWeb漫画を描いている今田たまの友人でアシスタントです。
直接の被害者ではないけれど、今田が父親の事件に件で電話をくれたあの日のこと、あの日の声は、11年経った今でも忘れられません。
滅多に泣かない彼女が聞き取りにくい泣き声で、それでも絞り出した連絡の電話。
『父が○○に巻き込まれて、亡くなりました。多分、新聞に出ると思うからびっくりしないようにと思って……』
いきなりだったし涙声だったから【事件】なのか【事故】なのかが聞き取れず、とりあえず「しっかりね」なんてありきたりの言葉をかけるしかなかったけれど、電話が切れた後、当時同居していた弟に
「今田さんのお父さんが亡くなったんだって…! 事故だか事件に巻き込まれたって。巻き込まれたってことは事故!? 新聞に出るかもってなんだと思う!!??」
と独り言のように喚き散らしながら、懸命にネットニュースを探しました。
そしてみつけたのは【パチンコ店店長刺殺】の見出しで、間違いなくこれだ、と震えながら読みました。
何度も今田の家に遊びに行っていたし、お父様にもお会いしていたから「あの優しい人が? 今田さんが大好きなお父さんが? 今田さん、いったいどんな気持ちでいるの!?」と次から次に涙が溢れてきました。
当時、今田は茨城県、私は宮城県に住んでいたので、すぐにでも行ってそばに居たかったけれど、弟の冷静な「今行っても迷惑だろ。連絡来るまで待つしかない」の言葉に、うーうー言いながら従うしかありません。
せめて情報だけでもと新聞やネットで事件の続報を収集します。収集した情報が伝えてくるのは、目撃情報があまりないこと、お父様がどんな風に抵抗して動いて逃げたのかということ。本当に、亡くなってしまったんだということ。
毎日毎日呪いました。犯人を。
このどす黒い祈りで呪い殺せればいいのにと、本気で毎日願っていました。
お葬式が終わり、やらなければならないことのいろいろが終わった今田から電話がかかってくるようになりました。
精神も情緒も不安定な彼女が私を頼ってくれることはとても嬉しかったけれど、気の利かない私は何を言えば良いのかわからず、話を聞くことしかできませんでした。できるだけ時間を作って、電話に出れる時は出て、出れなかった時は必ずリターンして。
犯人が悪いのに、彼女から出てくる言葉は自分への後悔ばかりです。
「閉店後はひとりだって知っていたし、危険だって思ってたんだから毎日迎えに行けば良かったのに」
「もう定年になっても良い年だったんだから引退して貰えば良かったんだ。私の稼ぎが不甲斐ないから」
「殺されたのが私なら良かった」
基本は話を聞くだけでしたが、さすがにそうなってくると「あなたが亡くなっていたらその後悔をするのはお父さんだし、私たち友人だって大好きなあなたがいなくなるのは嫌だからね」と反論はしましたが。
半年が過ぎて犯人が捕まり、それでもしばらくは自分を責めていた今田ですが、やっと相手への憎しみを吐露してくれた時に、ものすごく安心したことを覚えています。
そう。いいぞ。いい傾向だぞ。悪いのはあなたじゃないんだから。
ある日、カウンセラーさんに「話せる相手がいるっていいことだって言われたよ。ありがとうね」と彼女が言いました。
話す相手がいるだけで楽になれるし、心の回復が早くなるんだそうです。
こんなに何も言えなくて自分は無力だと結構打ちひしがれているのに?とイマイチ納得できませんが(今でもできていませんが)心理学や心理療法などを学んだプロが言うのですから、きっと間違いないのでしょう。
【気の利いたことが言えない】と私は思っていましたが、裏を返せば【黙って好きなだけ話させてくれた、話を否定せずに聞いてくれた】ということになるらしいのです。
そうかぁ。それでもいいのかぁ。……いいらしいですよ。
当事者じゃない場合、どう対応すればいいのかわからないと思いますが、そばにいる、もしくは少し離れたところで気をかけて心を寄り添わせる、で良いらしいのです。
私たちは、落ち込みが少しでも晴れた頃に当事者から連絡を貰えればと待ってしまいがちですが、私たちが思う以上に当事者は動けないしその力を発するのは気持ち的にも体力的にも相当難しいのだそうです(今田さんにくっついてPoenaの定例会に参加して知りました)。
どうしても声がかけづらくて距離が出来てしまった場合でも、たとえば暑中見舞いや年賀状のようなものを出し続けたり、誕生日にひとことメールを送ったりして関係の糸を断ち切らないことで、いつかまた話ができる関係に戻れるかもしれません。
相手が心配、気になる、元気になって欲しい、また会いたい。
ただ、そういう気持ちを大事にしていけばいいのだと思います。
私は犯罪被害者本人でも家族でもありません。
こちらのサイトでWeb漫画を描いている今田たまの友人でアシスタントです。
直接の被害者ではないけれど、今田が父親の事件に件で電話をくれたあの日のこと、あの日の声は、11年経った今でも忘れられません。
滅多に泣かない彼女が聞き取りにくい泣き声で、それでも絞り出した連絡の電話。
『父が○○に巻き込まれて、亡くなりました。多分、新聞に出ると思うからびっくりしないようにと思って……』
いきなりだったし涙声だったから【事件】なのか【事故】なのかが聞き取れず、とりあえず「しっかりね」なんてありきたりの言葉をかけるしかなかったけれど、電話が切れた後、当時同居していた弟に
「今田さんのお父さんが亡くなったんだって…! 事故だか事件に巻き込まれたって。巻き込まれたってことは事故!? 新聞に出るかもってなんだと思う!!??」
と独り言のように喚き散らしながら、懸命にネットニュースを探しました。
そしてみつけたのは【パチンコ店店長刺殺】の見出しで、間違いなくこれだ、と震えながら読みました。
何度も今田の家に遊びに行っていたし、お父様にもお会いしていたから「あの優しい人が? 今田さんが大好きなお父さんが? 今田さん、いったいどんな気持ちでいるの!?」と次から次に涙が溢れてきました。
当時、今田は茨城県、私は宮城県に住んでいたので、すぐにでも行ってそばに居たかったけれど、弟の冷静な「今行っても迷惑だろ。連絡来るまで待つしかない」の言葉に、うーうー言いながら従うしかありません。
せめて情報だけでもと新聞やネットで事件の続報を収集します。収集した情報が伝えてくるのは、目撃情報があまりないこと、お父様がどんな風に抵抗して動いて逃げたのかということ。本当に、亡くなってしまったんだということ。
毎日毎日呪いました。犯人を。
このどす黒い祈りで呪い殺せればいいのにと、本気で毎日願っていました。
お葬式が終わり、やらなければならないことのいろいろが終わった今田から電話がかかってくるようになりました。
精神も情緒も不安定な彼女が私を頼ってくれることはとても嬉しかったけれど、気の利かない私は何を言えば良いのかわからず、話を聞くことしかできませんでした。できるだけ時間を作って、電話に出れる時は出て、出れなかった時は必ずリターンして。
犯人が悪いのに、彼女から出てくる言葉は自分への後悔ばかりです。
「閉店後はひとりだって知っていたし、危険だって思ってたんだから毎日迎えに行けば良かったのに」
「もう定年になっても良い年だったんだから引退して貰えば良かったんだ。私の稼ぎが不甲斐ないから」
「殺されたのが私なら良かった」
基本は話を聞くだけでしたが、さすがにそうなってくると「あなたが亡くなっていたらその後悔をするのはお父さんだし、私たち友人だって大好きなあなたがいなくなるのは嫌だからね」と反論はしましたが。
半年が過ぎて犯人が捕まり、それでもしばらくは自分を責めていた今田ですが、やっと相手への憎しみを吐露してくれた時に、ものすごく安心したことを覚えています。
そう。いいぞ。いい傾向だぞ。悪いのはあなたじゃないんだから。
ある日、カウンセラーさんに「話せる相手がいるっていいことだって言われたよ。ありがとうね」と彼女が言いました。
話す相手がいるだけで楽になれるし、心の回復が早くなるんだそうです。
こんなに何も言えなくて自分は無力だと結構打ちひしがれているのに?とイマイチ納得できませんが(今でもできていませんが)心理学や心理療法などを学んだプロが言うのですから、きっと間違いないのでしょう。
【気の利いたことが言えない】と私は思っていましたが、裏を返せば【黙って好きなだけ話させてくれた、話を否定せずに聞いてくれた】ということになるらしいのです。
そうかぁ。それでもいいのかぁ。……いいらしいですよ。
当事者じゃない場合、どう対応すればいいのかわからないと思いますが、そばにいる、もしくは少し離れたところで気をかけて心を寄り添わせる、で良いらしいのです。
私たちは、落ち込みが少しでも晴れた頃に当事者から連絡を貰えればと待ってしまいがちですが、私たちが思う以上に当事者は動けないしその力を発するのは気持ち的にも体力的にも相当難しいのだそうです(今田さんにくっついてPoenaの定例会に参加して知りました)。
どうしても声がかけづらくて距離が出来てしまった場合でも、たとえば暑中見舞いや年賀状のようなものを出し続けたり、誕生日にひとことメールを送ったりして関係の糸を断ち切らないことで、いつかまた話ができる関係に戻れるかもしれません。
相手が心配、気になる、元気になって欲しい、また会いたい。
ただ、そういう気持ちを大事にしていけばいいのだと思います。
くらこ(漫画家・今田たまアシスタント)