コラム・会員の声

性暴力被害者支援団体「TSUBOMI」を取材して

浅川浩己(フリーライター)

私は犯罪被害者の実態を知りたいと思い、ポエナの会に参加させてもらっている者です。ポエナの定例会で、性暴力被害に遭った方から、性暴力被害者の現実を伝えてほしいと言われたことがきっかけで、性暴力被害について勉強するようになりました。
それ以来、性暴力被害者は日常生活を送るのも大変とか、ふとしたことからフラッシュバックが起き、その日は何も出来ないということを聞くようになりました。
また、性暴力被害に関する講習会があれば、受講したいなと思っていたところ、性暴力被害者を支援している団体「NPO法人レイプクライシスセンターTSUBOMI」が講習会を開催するということを知り、参加しました。その縁で、今回、TSUBOMIを取材させていただき、ポエナの会であがった疑問を中心にお聞きしました。
目次
<性暴力被害者は相談しづらい>
内閣府「男女間における暴力に関する調査(平成29年度調査)」によると、性暴力被害に遭った人の56%が相談しなかったという統計が出ています。
また、性暴力被害者は相談しづらいとよく耳にします。それは、なぜなのでしょうか?

――TSUBOMIスタッフ――
「相談できない」「相談しづらい」と思う理由は人それぞれですが、大きな理由のひとつとして、性暴力被害についての理解が進んでおらず、被害者が安心して話せる環境にないということが挙げられます。

相談できない事例として、

●警察へ相談しようと思っても、「どうして抵抗しなかったの?」などと責められるのではないかと不安に思ったり、信じてもらえないのではと躊躇(ちゅうちょ)し、相談できない

●家族や恋人に話そうと思っても、相手が被害に驚き、冷静に受け止めてもらえないのではと考え、身近な人へ言えないこともある

●仕事関係、例えば、会社の上司や取引先の人から被害を受けた場合、
今後の仕事上の関係を考えると自分さえ我慢すればいいと思ってしまい、相談できない

●被害に遭うとその人が元々持っているパワーを奪われ、自分から動くことが困難になる

●被害後、自身が悪かったのではと自責の念にとらわれることが多くある

などが、挙げられます。


<被害者の意思を尊重し、優しく見守ってほしい>
性暴力被害者は、家族との関係が悪くなるとも聞きますが。

――TSUBOMIスタッフ――
被害者の家族も被害を知って深く傷つきます。
家族はショックや混乱で、被害を受け止められないことも多いです。
加害者を許せないという気持ちを抱く人も多くいますが、怒りのやり場がなく、 「どうしてそんな場所にいったの」などと被害者へ怒りを向けてしまう人もいます。
そして、被害者に早く回復してほしい・力になりたいという思いが根底にあっても、
被害者に被害のことを深く聞いてしまうことで、被害者は自分が責められているような感覚に陥ってしまうこともあります。
また、被害者の家族は何かできることはないかと思うあまり、被害者の意思を確認せずに行動してしまったり、被害者へ指示してしまうこともあります。これらは被害者にとって不本意な行動で「自分の気持ちは大切にされていない」と感じる人もいます。
身近な人の言葉や行動だからこそ、深く傷つく被害者もいます。

家族から見ると「こうしたほうがいいな」と思うことがあるかもしれません。しかし、
「しない」という選択肢も含めて、被害にあわれた方本人の意思を尊重してほしいです。
選択肢があり、自分の意思で決められる。
これは性暴力被害者にとって、非常に大切なことです。ですので、家族は基本的には見守っていて、何かあれば「被害者と一緒に考える」というスタンスでいてほしいです。



<「話すこと」「話せる環境があること」「理解してくれる人がいること」>
TSUBOMIさんが大切にしているところは何でしょうか?

――TSUBOMIスタッフ――
突然、性暴力被害に遭い、被害者は自分の身に起こったことが、どういうことなのか分からないこともあります。話すことによって、何が起こったのかを一緒に整理し理解したり、自分の心や身体に起きていることと向き合ったり、適切なケアや支援に繋がるきっかけとなります。少しずつでも構わないので、お話できるところからお話してもらえたらとお伝えしています。

もちろん、話す、話さないの選択は被害にあわれた方本人がすることで、話したくない時は無理に話す必要はありません。話したくなった時に「話せる環境があること」がとても大切です。

残念ながら、今までは性暴力被害のことを話したい・相談したいと思っても、性暴力被害への理解が足りず、話したくても話せない、安全に話せる場所がない、という状態でした。
過去に被害を打ち明けた時に「忘れなさい」「もう話してはいけない」などと言われた人もいるかもしれません。
そういった方も含め、被害にあわれた方が性暴力被害のことを「話してみようかな」と思えるような雰囲気作りや環境作りは大切にしていきたいですね。
そのためにも、性暴力被害に理解のある人がもっともっと増えてほしいと思います。


私はTSUBOMIの講習会を受講して以来、性暴力は身近で起きているという認識はあるのですが、肌感覚として、世間では性暴力は悪いことだと思っていても、身近で起きているという認識を持っている人が少ない気がします。
なので、どうすれば性暴力被害に関心を持ってもらえるのだろう、と考えたりします。
「誰にでも話せる」というわけでもなく、かといって、友人や職場の同僚と普通に話せるかというと、状況やタイミングを考えてしまいます。
性暴力被害を伝えることの難しさはよく感じます。

<「あなたは悪くない」と言ってほしい>
最後に、今まで私が勉強してきた中で、誰にでも出来ることを紹介したいと思います。
性暴力被害者は「あの時ああしなければ良かった」と自分をよく責めたりします。
本当は加害者が悪いのですが。
もし性暴力被害者にお会いした時は「あなたは絶対、悪くない」と言ってほしいです。
その一言で被害者の気持ちは楽になり、回復への大きな助けとなるので。


TSUBOMIさま
お忙しい中、取材にご協力をいただき、ありがとうございました。

「NPO法人レイプクライシスセンターTSUBOMI」
主に電話相談やメール相談で、性暴力の被害にあわれた方やそのご家族、身近な方への支援をおこなっています。性別や被害にあった時期に関わらず相談できます。

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