大英博物館(BM)

視察日:2001年8月4日(土)・7日(火)・10日(金)


施設の概要

場所−−−ロンドン市内
面積−−−不明(歩行動線は全長4km)
設立−−−1753年(一般公開は1759年)
開館時間−10時−17時半、木・金のみ10時〜20時半
入場料−−寄付金制(「可能ならば2ポンド以上を」とのこと)

施設の特徴

人類の歴史と文明の遺産を結集した世界最古・最大の博物館。ロンドン最大の観光施設で、年間入場者数は700万人。有名な展示物としては、ロゼッタストーン、パルテノン神殿の彫刻群、ミイラ。この3つは、大英博物館の3大お宝と呼ばれているらしい。

別名、泥棒博物館。栄光の大英帝国の国力を背景に、世界各地の歴史的遺産を勝手に、または有無を言わさぬ契約を交わしてイギリスに持ち帰ったという展示物が少なくない。上記の3大お宝のいずれも、エジプト政府やギリシャ政府が返還を求めている。しかし大英博物館は「返還すると、その後の保管状態が悪化してしまう。人類全体の資産なのだから、もとの所有国に返すより、世界一の保管技術を持つわれわれが管理した方が良い」といった理論を展開し、返還を拒否し続けている。

ゾーニング

約90の展示室が、13の分野に分類されている。ただし常時改装工事をしているため、進捗状況に合わせて展示分類は頻繁に変更されているらしい。そのほかに、2003年の開館250周年を記念して、150年間閉鎖されていた広い中庭がガラス天井のもとグレートコートとして開放された(2000年12月オープン)。その中央部には円柱型の建物がある(用途は閲覧室、売店、セミナールームなど)。また、企画展が常時開催されている。

常設展示

 エジプト

BMの目玉展示ゾーン。他のゾーンよりもはるかに観客が多い。人気はやはり、ロゼッタストーンとミイラのコーナー。ロゼッタストーンはガラスケースの中で触ることができないが、黒山の人だかり。3種類の原語で同文が記されていたためエジプト象形文字を解読する大きな手がかりになったという石碑で、3種類の原語で字を彫ってあるならかなりの大きさになるはずと思っていたのだが、実物は以外に小さかった。

ミイラは、いろんな人がいた。人だけでなく、ネコのミイラもあった。ミイラの作り方がパネルで詳しく解説されていて、とても勉強になった。しかし、本当にその方法でうまくいくのか、誰か試したことがあるのだろうか、それが疑問だ。機会があったら、いつか誰かのミイラを作ってみたいと思う。日本では死体損壊とかの罪になるので無理だろうが。

また、ミイラの英語の綴りが MUMMY で、幼児語の「お母さん」とまったく同じであることが意外だった。英文パネルを読んでいて、「ミイラの話なのになぜ母親ばかり登場するのだろう、なんか変な文章だなあ」と思っていたら、別のパネルでミイラの作り方が Mummification となっていて、ようやく気が付いた。偶然の一致なのだろうか、不思議だ。

エジプトやギリシャ・ローマのゾーンでは、大きな石像や石柱がどかんと置いてある。そのほとんどが触れる展示になっていて、警備員の監視もゆるく、貴重な品物なのにこれで大丈夫なのかと心配に思ってしまった。

 古代近東

エジプトから南西アジアの諸国へかけての地域の古代の話。史上最初の文字社会のメソポタミア、地中海から東イランに至る大帝国ペルシャなど。

 ギリシア・ローマ

このゾーンの目玉は、パルテノン神殿の彫刻群。神殿の柱の上(地上から10m以上ありそう)、屋根の真下の辺りを一周するように配置されていた石板レリーフが何十枚とある。1枚の高さは1mくらい、幅は1.4mくらい。重さは分からないが、100kgはありそう。こんなでかいものを、よくあんなところからはぎ取って持ち帰ってきたものだと感心する。

それ以外にも、大きな展示物が多く、そのそれぞれがなかなかに目を引く。コレクションが充実しているため、ギリシャ・ローマは、最も広いゾーンとなっていた。

 アメリカ

インカ帝国やマヤ文明、アメリカ原住民などの話だが、あまりおもしろくない。アメリカ合衆国はイギリスと戦争をして勝った(独立戦争)し、中南米の国へはスペインが早く進出してイギリスは出遅れたので、あまりコレクションが集まらなかったようだ。

 アジア

このゾーンも、エジプトやギリシャ・ローマほどのインパクトがない。やはり博物館は、コレクションが弱いとつまらないと感じてしまう。

ただし、日本の特別展「みやげもの」は、とてもおもしろかった。どこかに出かけると、親類や近所、職場の人のためにたんまりとおみやげを買ってくるという文化は、世界的にユニークな風習であるらしい。みやげものとは日本人にとって何か(記念品なのか、贈答品なのか)、なぜたくさんの土産物が必要なのか、観光地はどのように魅力的なみやげものを開発しているのか、なぜ食料品がみやげものとして一番人気なのか、みやげものはどのように分配されるのか、などなどを研究していた。見たことがある日本全国の土産物がたくさん並んでいて、なかなか人気のあるコーナーとなっていた。しかし私の英語力では、いくらじっくりパネルを読んでも、結局この特別展の結論となるメッセージが分からずじまい。「日本人のおみやげは実に多彩でおもしろい」という程度の、軽いノリだったのかもしれない。

 アフリカ

これまで、アフリカに関する展示で、あまり感銘を受けたことがない。ここでも同じだった。土器や彫像が素朴すぎるように感じてしまう。本人の好き嫌いの問題かもしれない。

 ヨーロッパ(先史学・民族誌を含む)

先史学は、ヨーロッパの展示の両脇に位置する展示室2室。展示室9室のヨーロッパのゾーンの補完的な位置づけになっていて、連続して見学すると、ひとつのゾーンのように見える。民族誌は展示室1室で、先史学の隣。何が展示してあったか、まったく印象にない。

このゾーンは、なかなか楽しかった。同じ先史時代の遺物でも、ヨーロッパの方がアフリカよりもバラエティ豊かでおもしろい。全体的に、デザインが工夫されている。その後、中世やルネッサンス期になると、ヨーロッパの遺物のデザインは、まさに花盛り状態だ。現代でも、イタリアやフランスなど、ファッション先進国がヨーロッパに多いのは、この流れを引き継いでいるに違いない。

 ローマ帝国時代のイギリス

展示室1室だけのこじんまりとした展示。ローマ帝国が来る前のイギリスは、文明の遅れた原住民が住むヨーロッパの辺境の地だった。しかし、1世紀から5世紀初めまでブリテン島がローマ帝国に征服された際に、ローマ文明が導入され、たくさんの都市が建設され、道路網が整備された。このようなことから、この時代のイギリスの遺物はローマ風のものばかり。展示物には興味の湧くものがなかった。

 貨幣

コインギャラリーが素晴らしい。紀元前7世紀から現代までの世界各地のコインが一堂に展示されている。このコーナーだけで、じっくり見ていると半日以上かかってしまうほど、コレクションが充実している。「よくぞここまで集めたな、さすが大英博物館」という感じ。やはり博物館のおもしろさは、展示物次第だ。

 版画と素描

大英博物館の美術品のコレクションはなかなかに素晴らしいと聞く。確かに、展示してある作品は私でも知っている著名画家のものが多かった。

企画展

 Cleopatra of Egypt 〜 From History to Myth

クレオパトラとその周辺の人物を描いた展示物を集めた企画展。アレキサンダー大王やシーザー、アウグスタスなどもいた。彫像やレリーフ、絵画など。あまり規模は大きくない。もう一つの企画展のおまけのような存在に思えたが、私が不勉強なので展示物の魅力を理解できなかったのかもしれない。

 Trreasury of the World 〜 Jewelled Arts of Indea in the Age of the Mughals

16〜17世紀のインド・ムガール帝国時代の宝飾品を集めた企画展。ルビーやエメラルドをふんだんに使った美しい工芸品が並び、来館者も熱心に見つめていた。こういう展示物は、日頃不勉強でも素晴らしさが良く分かるので、ありがたい。

なお、企画展の入場料は、2つセットで10ポンド。この料金設定からも、「いかに高価な宝飾品を見せると言っても、企画展1つで10ポンドは高すぎる。しかしお釣り銭が楽だから、料金は10ポンドにしたい。そうだ、宝飾品よりももう少しアカデミックな内容の企画展をもう1つやって、2つで10ポンドにしよう。庶民は宝飾品を好むだろうが、アカデミックな客もいることだし」というような企画会議が行われたことがうかがい知れる。

飲食&物販

 カフェテリア

館内にはレストランが1カ所とカフェテリアが3カ所。グレートコートにあるカフェテリアは、大きなガラス天井から光が射し込み、天井が素晴らしく高く、空間的には快適な場所だった。しかし、食べ物をばらまく小さな子供があちこちにいるのに、人員不足で清掃が追いついていない。そのため、テーブルに着席する際には、テーブル上とイスの上をチェックし、濡れていれば係員を呼ぶ、そうでなければ残っているゴミをナプキンで払い落とす、という作業を行う必要がある。最初は驚いたが、2日目には慣れて、3日目には「これがイギリス風だ」とまったく気にならなくなった。

 ミュージアムショップ

館内に2カ所。片方はカジュアルな品揃え、もう片方は本格的な遺物のレプリカなどの高級品。当然、カジュアルな店の方がおもしろい。おみやげになりそうなグッズとしては、ロゼッタストーンをモチーフとしたものが主力商品となっていた。3大お宝のうち、ミイラとパルテノン神殿の彫刻群は、グッズ展開しにくい。そこで、残るロゼッタストーンで勝負しているという感じ。

 記録資料類

オフィシャルガイドブックは各国版が揃っていて、何と日本語版もあってびっくり。5ポンドだった。ただしガイドブックと館内では、展示物の配置が異なるところがいくつかあった。毎年改訂されているようだが、それを上回るペースで、展示物の入れ替えや移動が頻繁に行われているものと思われる。

備考

 疲労度

館内は、絶望的に広い。1回目の見学はロンドン到着の翌日、時差ボケの身体でどこまでがんばれるかと思ったが、すぐに足が痛くなって元気を失ったので、2つの企画展だけを見学し2時間で切り上げた。2回目は、体調を整えて5時間粘り、常設展示の半分を見ることができた。途中の休憩は3回。3回目は4時間かけて、残りの常設展示を見終えた。途中の休憩は2回。

2時間連続して歩くと、足や腰や肩にかなりダメージが来るので、途中のイスにちょっと座ったりしていても、しっかりした休憩が必要になる。しかし休憩も2回目、3回目になると、なかなか身体のダメージが回復しない。博物館見学は、テーマパークよりもはるかに疲れることが分かった。もしも10時間かけて見学するならば、1回2時間ずつ、5回に分けて見学するのが正解だと思う。

 ガイドツアー

各国語によるガイドツアーがあり、日本語のツアーもやっていた。1回2時間程度とのことなので、全部見ては回れない。代表的なところだけを回るコースと思われる。移動はけっこう急ぎ足であったので、参加しなかった。

 財政状態

素晴らしく見応えがあって、身体のダメージもガンガン来る規模なのに、入場料は無料、良かったら入場料無料を維持するために寄付をお願いします(2ポンド以上)というのは、さすがイギリス、太っ腹。と思ったら、2002年になって赤字が深刻になって、大問題になっているらしい。

新聞記事によると、「前例のない人員削減や展示室の一部閉鎖を迫られそうな事態なので、入館無料の現状を見直し、一部の展示室では一般公開をやめて団体客に限った有料見学制度の導入を検討している」とのこと。さらに、「現在の運営費は8割が政府補助で、残りが寄付金など。財政悪化は政府補助の削減や入館者減少による収入減が原因で、赤字額は2005年までに、従来の予想を3割も上回る650万ポンド(約12億2000万円)に達する見通し。博物館の今年の所蔵物購買予算は、前年比80%減の10万ポンド(約1900万円)で、10年前の140万ポンドに比べ14分の1」という。

企画のネタとして

展示物の内容勝負の博物館なので、凝った演出はほとんどない。「ただひたすら、展示物を見てください」という感じ。音声ガイダンスくらいあっても良さそうだが、不思議と用意されていなかった。そのかわり、ガイドツアーが各国語に対応しているようで、館内ではあちこちでガイドツアーの集団を見かけた。また、巨大展示物の部屋は天井高を思い切って高くしたり、展示物の大きさに合わせて部屋を作ったりして、展示物をしっかり見ることのできる環境づくりのためには、予算がふんだんに使われている。空調もある程度はしっかりしていて、変なにおいがすることはなかった(暑い部屋はいくつかあった)。

外国の博物館らしく、教育プログラムは充実していて、子供向けの体験教室もメニューが盛りだくさん。視察日はたくさんの子供がインド・ムガール帝国時代のプリンスやプリンセスの塗り絵を楽しんでいた。

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