ナショナル・ギャラリー(NG)

視察日:2001年8月11日(土)


施設の概要

場所−−−ロンドン市内
面積−−−不明(かなり広い)
設立−−−1824年
開館時間−10時−18時(水は21時まで)
入場料−−寄付金制(入口での目安金額表示なし)

施設の特徴

世界最大の美術館のひとつ。1260年から1900年までのすべての西洋美術の様式を網羅した24000点の絵画を所蔵している。イタリア・ゴシックとフランス近代絵画の充実ぶりは世界一とも言われているらしい。

ロンドンを代表する美術館は、ナショナル・ギャラリー(NG)とテート・モダン(TM)の2つで、それぞれ役割分担をしている。NGは絵画が盛んになりはじめる中世から印象派までの絵画を集めており、またTMは印象派以降の現代絵画や現代芸術をコレクションしている。

ゾーニング

時代別に4つのゾーニング。各ウイングの展示空間は、展示作品の時代のイメージに合わせた内装となっている。

常設展示

 セインズ・ベリー・ウイング

1260年〜1510年の作品が展示されており、宗教画が多い。展示空間の内装は、「濃い灰色の石造りのアーチや冷たく白い漆喰壁は、ルネッサンス期フィレンツェの教会のひんやりとした内部を思わせる」とのこと(記述は来館記念ガイドブックによる)。このウイングでは、レオナルド・ダ・ビンチの「岩窟の聖母」に魅力を感じた。

なお、この建物はスーパーマーケットの元オーナーであるセインズベリー卿(おそらく大富豪)がスポンサーとなっている。

 ウエスト・ウイング

1510年〜1600年の作品が展示されており、セインズ・ベリー・ウイングに比べて肖像画が多い。展示室の内装は、「豊かに彩色を施された織物が並び、さながら王侯貴族の館のよう」とのこと(記述は来館記念ガイドブックによる)。その理由は、「このウイングにある絵画は、そのような館のために描かれたものばかり」だかららしい。このウイングには、ミケランジェロやラファエロなどの名画が並んでいたが、私がピンとくる絵はなかった。貧乏な私では、王侯貴族のセンスが理解できないためと思われる。

 ノース・ウイング

レンブラントやルーベンスなど、1600年〜1700年の作品が展示されている。内装は、ウェスト・ウイングよりもシンプルで、現代の美術館風。23室はまるごとレンブラントで、NGの66室の展示室の中で最も人気があるようだった。この時代、絵の主題は多様化して、いろいろな情景(風景を含む)が描かれるようになったので、絵の素人の私でも、いろいろな絵があって楽しかった。特に風景画は、分かりやすいのでありがたい。

 イースト・ウイング

1700年〜1920年の作品が展示されている。教科書や写真集で見たことがある作品が多く、このウイングはとても楽しかった。

ジョージ・スタッブスの「ホイッスルジャケット号」という馬の絵は、大きくて躍動的で毛並みがとても美しい。またターナーの「解体のため最後の停泊地に引かれている戦艦テメレール号」は、曳航される古い蒸気船の戦艦が実に悲しげで、見とれてしまった。その他、ゴッホ、セザンヌ、ルノアール、ゴヤ、モネ、ドガ、スーラなどの有名作家の作品がたくさん並んでいたが、印象派にあまり魅力を感じない私は、見たそばからどんどん印象を忘れていってしまった。

アメリカのどこかの美術館で「盲人の食事」というすごい作品を見て以来、海外の美術館に行くときはいつも、ピカソの青の時代の作品を期待している。「ナショナル・ギャラリーにもピカソがある」と聞いていたので期待していたのだが、あったのは1901年の「鳩を抱く子ども」という作品。青の時代の作品だが、私にはあまりぴんと来なかった。実に残念。

飲食&物販

 レストラン

飲食施設は2軒。セインズベリー・ウィング2階のレストランと、イースト・ウイング地下のカフェテラス。カフェテラスでの昼食、サンドイッチ類と飲物を親子3人で19ポンドほど(安くはないが、ロンドンの物価から考えると、高くもない)。

 ミュージアムショップ

館内に3カ所。あまり広くはないが、品揃えが楽しかった。

 記録資料類

「ナショナル・ギャラリーの名画たち 来館記念ガイド」が素晴らしい。各国版があり、日本語版もあった。館内の代表作36点の名画を解説した小冊子で、私のような初心者にも解説が分かりやすく、とても勉強になる。薄くて軽いが、絵画の写真は美しくこれで4.95ポンドはたいへんお買い得。

備考

 疲労度

館内は広いが、BMほどではない。また、あまりピンとこない展示室は素通りし、気に入った絵があるとベンチに座ってじっくり鑑賞、という作戦が使えるので、疲労度の点ではBMよりはるかに楽。1日あれば、ひととおり、自分のペースで見学することができる。

 展示解説サービス

サウンドトラックという携帯型CDプレーヤー&解説CDのセットを貸し出していた。6カ国語に対応しており、英語版だとほとんどすべての作品の解説を聞けるらしいが、その他の言語のものは代表作30点のみの解説。展示室は66室なので、単純平均で2室に1作くらいの解説になる。これがなかなか良かった。操作が簡単で、説明もとても分かりやすい。ちゃんとプロのナレーターを使っているのだろう、声も聞き取りやすい。もっと軽量小型化できればなお素晴らしいと思う(ごく普通のCDウォークマンと同サイズ同重量なので、2時間も首にぶら下げたままだと肩がこる)。

なお、料金はこれも寄付金制で、「この装置に満足したら4ポンドお願い」とのこと。入館無料なので、オプションサービスも原則無料にしたかったのだろうが、目安金額の4ポンドは安くはない。本音と建て前の板挟みで、なんだかすっきりしない状況になっている。すっぱり「有料サービス」と割り切ってしまえばいいのにそれができないのは、「常設展の部分は原則無料」というような規定があるからなのだろう。BMも、企画展は有料制(それも10ポンド=安くはない)だが、常設展示では一切無料(寄付金制)だった。

 財政状態

エントランスに寄付金箱はあるが、目安金額は表示されていない。入場時と退場時で寄付金箱の中身があまり変化していなかったので、寄付金の集まり具合が今ひとつである可能性が高い。

 レポートの書き手の美術知識について

私は、芸術分野についてはまったくの素人。だから絵については、いつの時代の何派の誰の作品、ということにはまったくこだわらず、単純に「この絵は好き、この絵は好きではない」という感覚で鑑賞している。モダンアートの面白さはある程度分かるが、抽象画はまったく理解できない。ジャンルとしては、風景画が一番分かりやすいので好き。

高校生までは、絵を描くのは苦手で、絵を見るのも嫌い。学校行事で美術館に行くと、最初から最後まで「早く帰りたい」とだけ考えていた。芸術に対する感性が優秀でないから作品の良さが分からないのではないかと、このような自分を恥じていた。しかし都立高校の担任の美術の先生に教わり、美術観が180度転換。この先生はまったく売れていない前衛芸術派で、人間が無数に集まって太陽になっているような絵ばかり描いていた。ある日、生徒である私は生意気にも「先生の絵は、どこがいいのか、まったく分からない」と言い放ってしまった(その一言は、みんなそう思っていても、担任の先生であることだし、言ってはいけないという暗黙のルールがあった)。先生は職員室に私を呼んで、怒ったりあきれたりせず、「分からないものを分からないと言える、そのストレートな感性は、大切にすべきだ。画家だって、他人の絵を見て、分かる絵は分かるし分からない絵は分からない、そんなもんだ。それでいいんだ。自分の気に入る絵を探せ。それが見つかれば、幸せな気分を味わえるぞ」と教えてくれた。

この教えがなかったら、私は「盲人の食事」に出会うこともなく、そしてそれ以前に今でも美術館嫌いのままだったろうと思う。

企画のネタとして

日本で***展が開かれると、会場は押すな押すなの大混雑で、とても絵をじっくり見られたものではない。それに比べると、NGは大違いだ。好きな絵があれば、1時間でも2時間でも、じっくり見つめていることができる。素晴らしいことだ。絵が好きな人には毎年のように海外の美術館巡りに出かける人が少なくないと聞くが、当然であると思う。

日本でも、海外の美術館のようにじっくりと落ち着いて作品を眺めることができる芸術展が開かれるようになれば、少しは芸術好きの人口が増えることだろう。しかし、輸送や会場設営、印刷物製作などのコストを考えると、たくさんの入場者で賑わってくれないと、大赤字を食らってしまう。少数の入場者でも成り立つイベントとするためには、巨額の補助金・寄付金や企業協賛金が必要となる。しかし企業協賛の場合は、協賛効果を高めるためにはたくさんの入場者を集めなければならないので、少数入場者向けイベントでは実現しにくい。また、昨今の情勢ではお上の補助金はほとんど期待できないので、残るは寄付金だけだ。

「死ぬまでに、ピカソの青の時代の作品をひととおり自分の目で眺めてみたい」と思っている私は、日本で「ピカソ・青の時代展」として代表作品をひととおり集めた落ち着いて見学できる特別展が実現するならば、10万円くらいまでなら出してもいいと思う。このような人間が1万人集まれば、総額1億円のプロジェクトになる。これではまだ足りないのだろうか。それならば、一般公開日(1人2000円くらいでの通常での公開)と、特別公開日(1日入場者数を制限し、その制限度合いにより1人1万円〜100万円の寄付を必要とする)という2本立てにすれば、収支はさらに改善されるだろう。しかしそもそも、「ピカソの青の時代の作品をひととおり集める」なんていうこと自体、実現不可能な大それた野望なのかもしれないが・・・。

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