テート・モダン(TM)

視察日:2001年8月15日(水)


施設の概要

場所−−−ロンドン市内
面積−−−42390u(けっこう広い)
設立−−2000年5月
開館時間−10時−18時(金・土は22時まで)
入場料−−寄付金制(入口での目安金額表示なし)、企画展は有料

施設の特徴

世界最大の現代アート美術館。ミレニアムプロジェクトの一環としてオープン。ロンドンを代表する美術館としては、これまで古典美術のナショナル・ギャラリー(NG)と近代美術のテート・ギャラリーがあったが、テート・ギャラリーが手狭になったため、現代美術を専門とするテート・モダン(TM)が新館として開設された。これに伴い、テート・ギャラリーはテート・ブリテンと改称している。古典美術のルーヴル美術館と現代美術のポンピドー・センターに続いて、近代美術のオルセー美術館が開設されたという、パリの美術館の規模拡大と似たような展開となっている。

建物

建物は、テムズ川沿いに1940年代に建設されたバンクサイド火力発電所を改築したもの。改修費は何と1億3400万ポンド、1ポンド180円とすると約214億円で、新築するよりも高くついたらしい。ちなみに、バブル経済の前の時代に「新宿の超高層ビル1本の建築費は200億円」と聞いたことがある。外観はどっしりとしたレンガ造りで、煙突がそびえ立つ。近づいていくと、かなり巨大な建物であることが分かってくる。

1Fレベルから建物に入ると、エントランスホールは巨大な吹き抜け。かつては巨大なタービンが電力を作りだしていたタービンホールで、奥行き155m、高さ35m(7階分)。壁には黒い無骨な柱が建ち並び、天井からは光が射し込み、不思議な感覚の空間となっていて、この時点でがんがん期待感が盛り上がる。緩やかなスロープを進み、地下1階レベルまで降りると、展示室の入口がある。

ゾーニング

ゾーニングは、通常の時系列的展開や手法別展開ではなく、テーマ別の分類。美術館としてはとてもユニークな方法で、美術愛好家の間では「画期的」とさえ言われているらしい。ゾーニングテーマは、なぜか館内案内パンフレットとハンドブックで、細かい表現や順番が異なっていた。館内案内パンフレットでは、 そしてハンドブックでは、 である。表現の微妙な違いは原文の英語を日本語訳したときの振れだと思うが、順番まで異なるのは謎だ。

展示

 風景/物質/環境

3階の展示室。「かたつむり」は、風景画に対するセザンヌとモネの2つの考え方を融合することに成功したアンリ・マティスの真髄と言えるコラージュ作品だ(TMハンドブックによる)。しかし不勉強な私には、この作品のどこがいいのか皆目見当が付かなかった。そもそもこのゾーンでは、作者が何を表現しようとしたのか理解できて、それを面白く感じたのは、ほんの一握りの作品だけだった。現代美術は難しいと思った。

 静物/オブジェ/実体

3階の展示室。このゾーンは難しいのから分かりやすいのまで、もりだくさん。キュービズム(20世紀初頭)はここでもやっぱり難解だった。TMで最も有名な(悪名高い)作品は、マルセル・デュシャンの「レディメイド」(さまざまな日用品を芸術作品として展示する試み)と言われているが、この作品はただの男性用便器がぽんと展示されているだけ。これもキュービズムに入るらしい。

サルバドール・ダリの立体的作品「ロブスター電話」に代表されるシュルレアリズム(1930年代)は、作品がキュービズムよりも分かりやすい。しかし、どうしてこーいうものを作ろうと思い至ったのか、作者の意図までは理解できない。

アメリカン・ポップ・アート(1960年代初期)は、単純明快な面白さがあって、私のようなレベルでも楽しめる。ウォーホールの缶入りスープの作品は、日常生活の描写の復活という点で美術史に残る大きな意味のある作品らしい。しかしそのようなことを聞かなくても、この作品は見ているだけで楽しい。この缶入りスープはどんな味で、その持ち主(または買った人)はどのような家族構成で、どのような会話を交わし、どのような生活を繰り広げていくのか、などなど、どんどんイメージがふくらんでくる。

 歴史/記憶/社会

5階の展示室。歴史上の出来事や、聖書、文学、神話などを主題とした歴史絵画として知られる分野を中心に展示しているゾーン(と、スーベニールブックにある)。このゾーンに、何故ウォーホールの「マリリン・モンロー」や、ピカソの「泣く女」(それもシリーズの最高傑作)があるのか、その説明はスーベニールブックに延々と書いてあるが、何回読んでも良く分からない。次のゾーン(裸体/アクション/体)の方が適しているように感じてしまうのは、きっと私の知識レベルが低いためだろう。

ゾーン全体としては、3階の2つの展示室よりもはるかに分かりやすい作品が多い。理解できる自分がうれしくて、長居してしまった。

 裸体/アクション/体

5階の展示室。このゾーンが、もっとも分かりやすかった。ピカソの「3人の踊り子」やアルベルト・ジャコメッティの「指さす人」などの有名作品がたくさんあるのだが、しかし、なぜか私にはあまりおもしろくなかった。

飲食&物販

 レストラン

飲食施設は2階と7階にウェーター・サービスのカフェ、そして4階にエスプレッソ・バー(セルフサービス)の3軒。7階のカフェはテムズ川を望む素晴らしい眺望のためか大混雑していた。

 ミュージアムショップ

ミュージアムショップは1階・2階・4階の3カ所。1階の店が広々としたメインショップで、本や絵はがき、ポスターなどの中で、いかにも美術館という感じのおしゃれなオリジナルグッズが目立っていた。著名デザイナーがTMのために制作したTシャツやアクセサリーが、売れ行き好調とのこと。

 記録資料類

ハンドブック、ガイドブック、建物の3種の図書は、日本語を含む5カ国語が用意されていた。ハンドブックは小型版で本文ページがすべて折込となっている特殊な体裁で、このような面でもTMは個性を主張している。3.99ポンドだった。

備考

 疲労度

NGより床面積は狭く、適度な疲労感を感じる程度。エスカレーター完備なのがありがたい。

 展示解説サービス

ガイドツアーや音声ガイドなどのサービスは実施されていなかった。

 立地

TMは、立地条件も素晴らしい。テムズ川のほとりで、対岸にはセントポール大聖堂、目の前にはミレニアムブリッジ(完成してすぐに揺れがひどいため改修工事に入り、そのまま撤去となった幻の橋)がある。すぐ隣は再建なったシェイクスピアのグローブ座だ。この一帯はそれまで人通りの少ない一角だったが、この3点セットでメジャーな観光コースの仲間入りを果たした。

 客の入り

オープン以来、予想を大きく上回る観客を集めているとのこと。「すでに新しい名所として定着した」とも言われている。業界関係者、アート好きはもとより、観光客にも大人気となっている。

 財政状態

エントランスに寄付金箱はあるが、目安金額は表示されていない。入場時と退場時で寄付金箱の中身がしっかり増えていたたので、寄付金の集まり具合は好調である可能性が高い。

企画のネタとして

「美術館はどのようにしたらたくさんの見学者を集めることができるか」という課題に対するひとつの正解が、TMだ。多面的な魅力づけによって、「TMを見に行きたい」と強く感じさせる施設づくりに成功している。展示内容は素晴らしいが、TMの魅力はそれだけにとどまらない。建物外観や吹き抜けのインパクト、カフェからの素晴らしい眺望、ユニークで吸引力のあるショップの品揃えなど、美術館のすべての面において、TMには強力な魅力がある。

さらに、TMはプレスビューに先だって、400人ものタクシードライバーを招待したと聞く。「TMに行ってくれ」と客に言われても、運転手が知らなければ連れて来れないので、まずタクシードライバーに知ってもらおうという作戦だが、動員拡大のためにここまで徹底的にやるとは、かなり気合いが入っている。「絶対に人気の美術館にするぞ」という意気込みが伝わってくる。

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