オペラ座の怪人

視察日:2001年8月4日(土)・昼の部


興行の概要

場所−−−ハー・マジェスティーズ・シアター
客席数−−1172席
作品初演−1986年10月9日
入場料−−37.5ポンド(ストール)

劇場の概要

1705年開場の由緒ある劇場。1986年から現在に至るまで、「オペラ座の怪人」の専用劇場として使われている(短期間、他の作品を上演することもある)。2000年1月に、英国の作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーがオーナーとなった(同時にロンドンの10劇場を買収)。客席は4層で、下からストール、ドレス・サークル、アッパー・サークル、バルコニー。

作品の概要

原作は、フランスの作家ガストン・ルルーが1910年に発表した小説。英国の作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバーがドラマチックなラブストーリーのミュージカルに仕上げ、1986年秋にロンドンで初演。その後ニューヨークでも上演が開始され、爆発的ヒットへ。日本でも劇団四季により1988年春から上演が始まり、大阪、名古屋、札幌、福岡、仙台、京都などで公演を重ねている(日本のみ、専用の劇場がない)。

舞台設定は、19世紀のパリのオペラ座。地下の湖に棲む怪人(音楽家で、クリスティーヌの音楽の先生を兼任)と、劇団主演女優に成長したクリスティーヌ、そしてクリスティーヌの幼なじみのシャニュイ子爵ラウルが、ドラマチックな三角関係ラブストーリーを展開する。

ロンドンでは、1986年10月9日の初演から2001年3月20日までの約14年半(約5270日間)で、上演回数は6000回に到達。この間の空席率はなんと1%未満という人気ぶり。現在でもチケットの入手はかなり困難で、週末の座席は半年前に売り切れることもあるとのこと。

公演の様子

 チケット受取

開演時刻の3時の2時間前に劇場に到着。観客らしい人影はまばら。「開演の30分前に開場、そしてオンラインで購入したチケットの交付も同じ時間から」とは聞いていたが、劇場窓口が開いていたので、試しに申し出てみた。しかし「まだチケットがここに届いていない」とのこと。

近くのカフェで時間つぶしをして、そのへんをお散歩して、開演の30分前に再度劇場へ。観客が増えて、窓口には数人の行列ができていた。並ぶこと数分、Eメールのプリントアウト(予約番号が記されている)と購入に使ったクレジットカードを提出すると、すんなりとチケットが出てきた。予約時に席番が分かるオンライン業者を利用したので、さっそく席番を確認。ちゃんと合っていた。

 入場

劇場内のロビーは予想外に狭く、劇場の古さを感じる。また、客席も前後のピッチが狭く、客が横に移動する際は座っている人全員に立ってもらわなければ通れない。劇団四季の春・秋の劇場の方が、ピッチがはるかに広い(座ったままの人の前をなんとか通過できる)。

ステージは広いが、客席部分はあまり広くない。しかし垂直方向には広く空間が広がっていて、4層の客席はステージを包み込むように配置されている。バルコニーにボックス席のある伝統的なオペラ劇場のような構造で、どの客席からもステージが近い。2階席の最前部は、かなりいい席となっている。

内装は全体的に古びた雰囲気だが、寂しくはない。しっかり造られた伝統的な古い劇場という感じで、上演作品のイメージとよくマッチしている。

 公演

日本の劇団四季の公演を10回くらい見ており、またCDも頻繁に聞いているので、日本語のセリフや歌詞はほとんど覚えていた。そのため、英語ながらもセリフと歌詞がすんなり入ってきて、しっかり楽しめた。舞台装置は、日本版とほとんど同じ。演出は、日本版よりも観客の笑いを誘うシーンが多かった。これはジョークを愛するお国柄だろう。また、愛情にあふれたシーンがしっとりしていて、ラブストーリーである側面が強調されていた。歌は劇団四季よりもややレベルが高いように感じたが、激しいシーンが少ないためかダンスのレベルの差には気が付かなかった。

PAの音質は日本版よりもかなり柔らかかった。劇場の形状(縦に長い)、または内装材の材質(木材がふんだんに使われている)によるものと思われる。そのため、怒った怪人のセリフを聞くと、日本版では張りのあるギンギンとクリアなストレートパンチ系の恐ろしさを感じる(特に日本版初期の山口祐一朗の怪人)が、ロンドン版では低音が豊かでドスの利いたじわじわ広がってくる絞め殺されるような恐ろしさだった。

座席はF列の1〜3、前から5列目(A列がない)でステージに向かって左の端。ステージに近いため、迫力満点だった。特に主役の怪人の歌声は、ほとんど生の声が飛んできているように聞こえた。

飲食&物販

 アイスクリーム販売

第1幕と第2幕の合間には、客席から廊下に出るドアの手前でアイスクリーム(2ポンド)が販売され、よく売れていた。劇団四季の公演では、劇場客席空間内での飲食はたいてい禁止されている。どうもイギリスでは、ミュージカルシアターでの飲食は規制がゆるいらしい。上演中もあちこちでお菓子の袋を開く音がした。売り子はインド系と思われる美人だったが、バニラアイスは並の味だった。

 売店

プログラムは3ポンド。終演後は日本の劇団四季の劇場と同様に、売店がごった返していた。

備考

 チケット価格

チケット本体は37.5ポンド。公演の4か月前にファースト・コール・チケッツというオンラインチケット販売業者を通じて購入した。販売手数料は1枚5.65ポンド。さらに、劇場窓口でのチケット交付料として3枚で1.5ポンドが加算された。合計すると、1枚43.65ポンド(当時の為替レートは1ポンド=185円、約8000円)。

 当日券割引販売所

ロンドン・ウェストエンドの劇場外にほど近いレスタースクエアには、何軒ものミュージカル・チケットショップが集まっている。最大手はtktsという当日券半額販売所で、午前中から長蛇の列ができていた。その日販売される公演はマチネ(昼の部)とソワレ(夜の部)それぞれに掲示板に貼り出されていた。有名作品としてはスターライト・エキスプレスやフェイム、王様と私などが昼夜ともに出ていたが、オペラ座の怪人やキャッツは売られていなかった。

企画のネタとして

この作品の最大の魅力は、完成度の高さだ。歌、ダンス、ストーリーというミュージカルを構成する3つの基本要素のいずれもが素晴らしく、さらによく練り込まれた演出や高度な舞台装置、その結果生み出されるスピーディーな場面転換などと相まって、瞬きをすることすら忘れてしまうほどの濃密な舞台が展開される。眠くなるような場面はまったくない。

物語の起伏に合わせて、自分の心臓の鼓動が上がったり下がったり、そして冷や汗をかいたりほっと安堵のため息を付いたり。演劇や舞台、映画では、素晴らしい作品に対する讃辞として「物語に引き込まれる」という表現をするが、まさにそれである。それも、最初から最後まで、引き込まれっぱなしだ。だから、見終わった後はどっしりと疲れる。気持ちよい疲れの中、しばらくは客席に座っていたい気分だ。終演後のカーテンコールは、このような状態の観客の酔い覚ましを行い、現実社会へ復帰させるための大切な行事なのだということに気が付く。

イベント(仮設)やテーマパーク(常設)におけるコミュニケーション手法(テーマパークにおけるアトラクション手法でもある)としては、展示、映像、単純ライド、ライド型展示、ライド型映像、ライブショーなどがあり、最先端のトレンドはこれらの複合型だ。たとえばユニバーサルのテーマパークでは、ジョーズはライド+ライブショー、バック・トゥ・ザ・フューチャーは映像+ライド(モーションシミュレーター)、T2やバックドラフトは映像+ライブショーだ。短時間で観客に深い満足感を与えるため、複合型アトラクションとすることにより、濃密なコミュニケーションを展開している。

日本の万博クラスの博覧会でも、コミュニケーション手法の進化は続いている。1985年の科学万博ではライド+映像を中心に、複合型アトラクションのオンパレードだった。1990年の花博では、特にショーに力が入れられた感がある。主催者イベントとしてミュージカルが2本上演され、1本目の「お気にめすままお芝居を」は約1か月、2本目の「シンクロニ・シティ」は約3か月も公演された。この流れを受けて、地方博ではあるが。2001年の山口きらら博ではテーマ館が「やまぐち元気伝説」という山本寛斎藤プロデュースのライブパフォーマンスであり、また夜間の「きららスターライトファンタジー」も集客の核となった。

愛知万博では、パビリオンが立ち並ぶ従来の博覧会スタイルからの脱却を目指していると聞く。とすると、ますますショーに力を入れた博覧会となる可能性が高い。どんなショーを見られるか、今から楽しみに思う。しかし、質の高い作品とするためには、かなりの費用と相当の準備期間が必要となる。劇団四季とのタイアップで、環境問題を題材とする新作ミュージカル(海外作品の日本版でもいい)を公演したりすればおもしろそうだが、観客数には限りがある点が問題だ。3000人の巨大シアターでも1日2回公演で6000人、これを180日とすると108万人。動員目標2000万人のうちの5%しか見られない。理想的には、せめてこの5倍くらいの人が見られないと、博覧会の催事としては難しい。上演時間を短くすると満足度が下がる。シアターをもっと大きくしても、満足度が下がる。出演者を2チーム編成しても1日4回公演が限度だろう。5つのシアターを建設し5つのチームを編成すれば5倍になるが、コストも5倍に跳ね上がる。こう考えると、観客数の限界については、目をつぶるしかないのかもしれない。

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