シカゴ美術館(AIC)

視察日:2002年8月7日(水)


施設の概要

場所−−−シカゴ中心部
面積−−−不明(かなり広い、1日ではすべては無理)
設立−−−1893年(美術館として独立)
開館時間−10時半−16時半(火曜日は20時まで)、
       土日は10時−17時
入場料−−大人10ドル、子ども6ドル(SMIC寄りも高い)、
       火曜日は無料

施設の特徴

アメリカ3大美術館の一角(あとの2つは、メトロポリタン美術館とボストン美術館)。質の高いコレクションが充実しており、特に印象派の作品群と20世紀アメリカ美術のコレクションが有名。正式名称は、The Art Institute of Chicago。美術学校の付属美術館としてスタートし、4人の地元コレクターの寄贈によりコレクションが急成長した。これに合わせて建物も増築を繰り返したため、かなり複雑に入り組んでいる。全部を見て回るには2日はかかる規模。

ゾーニング

館内で購入したポケットガイド(日本語版)によると、  の12分類。しかし入館時にもらったフロアプラン(小冊子)は、このゾーニングにのっとっていない。たとえば20世紀絵画と彫刻は、モダン&コンテンポラリー(現代美術)と表示されていた。

常設展示

 ヨーロッパ絵画

中世から1900年までのヨーロッパ絵画が並んでいるゾーン。この美術館の最大の目玉であり、特に19世紀フランス印象派絵画のコレクションは世界的に有名。展示室にはどこかで見たことがある(美術の教科書や絵画集に掲載されている)絵がこともなげにたくさん並んでいて、「ふーん、この絵の本物はこんなに大きかったのか・・・」などと、展示作品に身近な親しみを感じてしまうほど。特に印象派のコレクションは壮大で、ルノアール、セザンヌ、モネ、マネ、ドガ、ロートレック、ゴッホ、ゴーギャンなどの作品が、延々と続いている。

「絵画や美術に関する知識と教養はほとんど持ち合わせていないので、ぱっと見て、良さを理解できる作品はじっくり見る、良さが分からない作品はすぐにパス」という私が特に気に入ったのは、  の3点。館内があまり混んでいないので、好きなだけ眺めていられて幸せだった。

 20世紀絵画と彫刻

この美術館の2番目の目玉ゾーン。このジャンルは、アメリカの美術館の中でもAICが最も高い評価を受けている、とのこと。アンディ・ウォーホールやリヒテンシュタインの作品もこのゾーンに含まれる。

私が思わず見とれてしまった作品は、  の2点。ピカソの青の時代の作品は、デリケートな色(青ばっかり)であるためか、印刷物では大きく印刷されていても、その良さがあまり伝わってこない。しかし作品の実物には、不思議な魅力があり、鑑賞者の足をぴたっと止めさせる力がある。「アメリカン・ゴシック」は、理性的で質素な生活の農夫とその娘を描いた作品だが、鋭い視線は排他性をも意味している、とガイドブックにあった。リアリズムの手法を取り入れた作品なのであまり古さを感じない。描かれた2人の表情がとても気になる。この2人は何を見て、何を考えているのかだろうと、いろいろと考えさせられてしまう。その不思議な魅力のためだろう、パロディ絵画のもとネタとしてアメリカ絵画の中で最も人気がある作品とのこと。

 ソーン・ミニチュア・ルーム(ヨーロッパ装飾美術と彫刻のゾーンの中)

実物の1/12で構築された建築模型68点のコレクション。題材は13世紀後期から1930年代までのヨーロッパと、17世紀から1930年代までのアメリカの代表的なインテリア。シカゴ在住のソーン夫人の考案により、詳細な指示を受けて熟練職人たちが制作したもの。人気の展示室とのことだが、開館30分後に行ったら空いていて、じっくり眺めることができた。

 ペーパーウェイト・コレクション(ヨーロッパ装飾美術と彫刻のゾーンの中)

ガラスの中に美しい模様が描かれた美術性の高いペーパーウェイトの展示。あまりの美しさに見入ってしまう来館者が多かった。ペーパーウェイトの製作方法の解説パネルが興味深かった。

 その他のゾーン

好きなゾーンから順に見学していったら、上記の4種で1日が終わってしまった。

飲食&物販

 カフェテリア

館内にカフェテリアが1軒、レストランが2軒。中庭に夏期だけオープンするガーデンレストランは、とても快適そうに見える。しかし昼食時に行ったら、30分くらい待つ、とのこと。そのため、コート・カフェテリアを利用した。こちらは客席数が多いので、常時いくつかのテーブルが空いていた。

 ミュージアムショップ

入口脇のミュージアムショップは広大で充実した品揃え。絵画写真集は20〜40ドルくらいする高額商品なので、見本の本を開く人は多いが、買っている人は少ない。売れ線は絵画のポストカードとカレンダー。ポストカードは大判が1.5ドル、標準サイズが75セントと安いので、自分の気に入った絵画のポストカードを探す人で売場は大にぎわいだった。

 記録資料類

ポケットガイド(見学者のための小型ガイドブック、日本語版もあり)が3ドル、マスタープリントというAIC所蔵作品写真集(かなり豪華、解説文付き)が35ドル、写真主体の所蔵作品集が24.95ドル、ソーン・ミニチュア・ルームの作品写真集が17.95ドルだった。

備考

 ガイドツアー

ボランティアによる無料の館内ツアーが行われている。3カ国語に対応しているが、残念ながら日本語はなかった。

 駐車場

AICはシカゴのダウンタウンの一角にあり、建物をどんどん増築していったこともあり、敷地に余裕がない。そのため、来館者用の駐車場は用意されていない。しかし、周囲には民間駐車場があちこちにあり、駐車スペースに困ることはなさそう。料金は大都市のダウンタウンなのでやはり高めで、ビルの地下駐車場に6時間止めたら22ドルだった。

企画のネタとして

AICでは、フラッシュを使わない写真撮影は許されている(ただしビデオカメラは禁止)。そのため来館者は、気に入った絵の写真を撮ったり、気に入った絵の前で記念写真を撮ったりしている。美術館では他の来館者の迷惑になるということで、写真撮影は禁止されるのが普通だ。しかしAICの来館者のマナーはとても良く、ちゃんと他の来館者の迷惑にならないように、人が途切れたタイミングを見計らって撮影を敢行している。このような客層であるから、写真撮影OKとしたのであろう。このことにより、展示されている絵画と来館者の距離感が狭まり、芸術作品を身近な存在として鑑賞できる環境になっている。また、絵画は額縁も含めてひとつの作品であると思う。だから、写真集で見る絵画(キャンバス部分のみなので平面的)と美術館で見る実物(額縁があり、さらにライティングも関係して、立体的)では、どうしても印象が変わってしまう。額縁は、絵の主題や雰囲気に合わせて制作されているので、自分のカメラで額縁と一緒に取った絵画の写真も、なかなか味わいがあるように感じる。
来館者が多い美術館だが、館内は広大なので、人口密度はそれほど高くない。そのため、上野動物園にパンダが来たときのように、どんどん進まないと次の人が見られない、なんてことはない。気に入った絵があれば、いつまでもその前に立ち尽くしていてもいいし、展示室中央のイスに座って眺めていてもいい。自分の好きな方法で、芸術作品を鑑賞できるのだ。これは素晴らしいことだと思う。このような美術館があることを知ってしまうと、たまに日本で開催される**展(いつも大人気で、すごい人混みで、とうてい芸術作品を鑑賞できる環境にはなっていないイベント)には行く気がしなくなる。

そもそも、芸術展は、あまりたくさんの来場者を集めてはいけないイベントであると思う。輸送費や会場設営費などの経費がいろいろかかるので、2000円とかの入場料で何万人も客を集めようとするのが普通だが、来場者から見ると、大混雑で他人の頭越しにやっと垣間見るような芸術展で、2000円は法外だ。来場者の満足度を上げるためには、入場料を10倍にして、入場者数を1/10にする手がある。好きな作品の芸術展ならば、入場料が高くても行こうとする人はいるだろう。たとえば私なら、ピカソの青の時代展ならば、2万円は払える気がする。しかしこんなことをすると、見学できる層が限られてしまう。美術館は、社会に開かれた公共性の高い施設であるがゆえに、どこの国でも入場料は安く設定されている。値段10倍・入場者数1/10作戦は、この美術館の使命に明らかに反するので、実現は難しい。

このように考えると、結論としては「自分の好きな作品をじっくり心ゆくまで見たい人は、海外の美術館に行って来なさい」ということか。美術館を主目的に海外旅行する人は少なくないと聞く。私はそこまでの美術好きではないが、しかし今度ニューヨークあたりに行く機会があったら、メトロポリタン美術館とMOMA、さらには少々足を伸ばして、ボストン美術館にも行ってみたいと思う。

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