科学産業博物館(MSIC)

視察日:2002年8月6日(火)・9日(金)


施設の概要

場所−−−シカゴ市内
面積−−−5.7ha(BMとほぼ同等)
設立−−−1926年
開館時間−9時半−17時半、冬期の平日は16時まで
入場料−−大人9ドル、子ども5ドル

施設の特徴

年間入場者数450万人の博物館(BMは700万人)。入場者数から見ると、シカゴで最も人気のある観光施設。子どもにも分かりやすく、実物や体験を通して科学や産業を習得してもらおうという趣旨の展示内容となっている。規模が巨大であるため、全部見るためには1日では足りない。

シカゴのダウンタウンの南にあり、博物館の近辺はシカゴ大学と広々とした公園、そして低所得者向けの集合住宅。そのため、あまり治安は良くない。特に集合住宅のエリアは、クルマの窓からも街が荒れているのが良く分かる。その一角にあるマクドナルドに入ってみたら、店員と客は全員黒人で、店の中はゴミが散乱、そして客同士が大声で怒鳴り合うように会話をしているという、かなり恐ろしい状況だった。イート・インをやめてテイクアウトにしたが、駐車場で「あと10セントあればハンバーガーが食えるんだ、金を恵んでくれ」というホームレス風の黒人の年寄りにつきまとわれた。やれやれであった。

ゾーニング

75部門で2000点以上の展示物が並んでいる。大別すると、以下の3ゾーン。

常設展示(面白かったコーナーのみ)

 潜水艦U−505号

第二次世界大戦の最中にアメリカ軍に拿捕されたドイツの主力潜水艦。1954年にこの博物館に運ばれ、内部が公開された。なぜかとても人気があって、待ち時間は1時間以上だった。このようなものを博物館で公開してしまうあたりは、いかにもアメリカらしさを感じる。

 フェアリー・キャッスル

無声映画の時代の女優コリーン・ムーアから寄贈されたミニチュア家具調度品のコレクション。イギリスのウインザー城でも似たような展示(クイーン・メアリーのコレクション)があり大人気だったが、ここもなかなかの人気。混んでいるときは30分以上並んだ。実に精巧に作られていて、時を忘れて見入ってしまう。

 炭坑

人気の展示で、開館1時間後で30分並んだ。エレベーターに乗って地底の炭坑に入り、ウォークのガイドツアーで炭坑再現空間を進む。その後、炭坑トロッコ列車(距離は短い)に乗って移動。そしてまたウォークのガイドツアー。全部の所要時間は45分くらいで、どっしりと見応えがある。ランプの明かりがゆっくり消えかかると酸素がなくなってきたのが分かるという実験が、いかにも科学博物館らしくて興味深かった。リアリティや充実度、さらには開設のための予算といった点を考えると、博物館の展示という概念を超越していて、もはやテーマパークのアトラクションに近い。

 胎児の成長

受精してから生まれる直前までの胎児の本物(ホルマリン漬け)が20体か25体くらい大きさ順に並んでいる。最初のうちは理科の教科書の世界なので、比較的冷静に見ていられるが、どんどん成長が加速し、最後の方はぐんぐん大きくなる。このまま生まれても生きていけると思われるサイズになってくると、思わず目をつぶりたくなってしまう。勉強にはなるが、実物ゆえのインパクトが強烈すぎる。展示としては人気があるようで、熱心に見入っている人が多かった。

 人体の輪切り

囚人だった黒人女性の縦の輪切り標本。1cmの薄さの標本が何枚も、ガラスにサンドイッチされて並んでいて、両面から見ることができる。この標本では、保存のためにプラスティネーションという技術が使われている。人体の組織を合成樹脂で包み込むようにして腐敗しないように保存する方法で、これによる人体輪切り標本は日本でも展示されたことがあり、とても美しかった覚えがある(大混雑していてじっくりとは見られなかったので、詳細は覚えてない)。しかし、ここの標本は古いのか、手入れが足りないのか、それとも初期のプラスティネーション技術であるためか、汚れがとても目立った。期待していたのに、少々残念。展示としてもあまり人気がないようで、展示場所は階段の踊り場だし、熱心に見入っている人は少なかった。

 飛行機

ユナイテッド航空のボーイング727の実機展示。ユニークなのは、フライト727と称して、1日5回1回15分程度、サンフランシスコからシカゴまでのフライトの様子が飛行機全体を使って演出される点。離陸時は管制塔とのやりとりが流れ、エンジンが動き、フラップも動き、車輪が上がる。そして着陸時も同様の演出がある。これらは、なかなか見ることができないシーンだ。飛行機に乗っていては機外の様子は見えないし、地上からでは双眼鏡や望遠鏡を使わないと良く見えない。それが目の前で繰り広げられる。素晴らしい着想だと思う。機体が古く、また大きなアクションはないのでショーとしての見応えはまったくないが、なかなかの人気を集めていた。

 ボールサーカス

ボールがコロコロころがって、いろんなアクションが繰り広げられる、という装置。ここのボールサーカスはアルプスをテーマとしている。ケーブルカーやロープウェイにちゃんとボールが乗車して、上に行ったり下に行ったり運ばれる様は、何回見ても飽きない。制作者の情熱と努力を感じる。

 ニワトリの卵の孵化

保温ケースの中に、孵化しつつあるヒヨコの卵がいくつも置いてある。よく見ると、中から小さなくちばしでつついて小さなひびができている。やがて殻をこじ開け、だんだんと毛玉みたいなヒヨコの姿が見えてくる。大きく殻を破るのに成功すると、よたよたと外に出てくる。見守っている観客(30人くらい)からはその瞬間、オウとか、コングラチュレーションとか歓声が上がる。やがてヒヨコは、とことこと歩いてエサ場に向かい、ついばみ始める。単純な着想だが、生命の神秘と生命のたくましさが見て取れる素晴らしい展示だ。

企画展

 タイタニック

シアーズの協賛による特別展。入口でタイタニック号のボーディングパス(復刻版)をもらう。かなり広い会場では、タイタニック号が多面的に紹介されており、船室や船長室など船の中の様子が詳細に再現され、引き上げた船体の一部、装備品、遺品の数々が並んでいた。乗客の証言、当時の新聞報道、1等・2等・3等の各クラスの乗客の生存者数・死亡者数などの生々しい情報が解説パネルで紹介され、読み応えがある。ユニークだったのは、「沈没地点の水温はこの氷より冷たかったのです。その温度を触って体験してください」という氷の展示。何秒間手のひらを押し当てていられるか、大人も子どもも競い合っていたが、いいところ10秒くらいが限度。この水温であったので、後の調査によると、多数の死者のほとんどが凍死であったと言う。この特別展は、大人10ドル・子ども8ドルの別料金がかかるが、とても充実した内容で見応えがあった。

 オムニマックス・シアター

視察日に上映されていたのは、スペース・ステーション(1日3回)とタイタニカ(1日6回)。料金は大人6ドル・子ども5ドル(2本見る場合の2本目は大人5ドル・子ども4ドル)。スペース・ステーションはどこかのアイマックス・シアターで見た覚えがあるので、タイタニカだけを見た。海底に沈んだ船体の発見ストーリーで、特別展を見た後だったこともあり、がんがん映像の世界に引き込まれていく。特別展の会場では、タイタニック号のレストランの洋皿が、発見時の様子を再現された空間で50枚くらいが並んで展示されていたが、海底でのその洋皿が映し出されると、客席から思わずオウという声が上がった。しかし残念なのは、フィルムかレンズか映写室のガラス窓にあるゴミの影が大きくしっかりとスクリーンに映し出されていたこと。機材のメンテが行き届いていない。

飲食&物販

 カフェテリア

館内にはカフェテリア、フードコート(といっても店はデリが2軒のみ)、飲物売店、アイスクリーム売店が各1カ所ずつ。レストランが1軒、近日オープンとなっていた。カフェテリアとフードコートは面積は広めなので、客席数としてはそこそこにあるが、フードコートの食べ物は出来合いのラップされたサンドイッチばかり、そしてカフェテリアもハンバーガー類が主体で、メニューがとても寂しかった。大英博物館でも飲食メニューはお粗末だったので、博物館の飲食はこんな程度が普通であるのかもしれない。

 ミュージアムショップ

宇宙のゾーンに宇宙系グッズのショップ、そして入口の脇には大きなミュージアムショップがあり、いずれも、店の看板からしてかっこよかった。ミュージアムショップの品揃えは、科学博物館の標準パターンで、日本でも見かけるものが大半。ここで買ったヒヨコのおもちゃ(ゼンマイ仕掛けでよたよたと歩く)は、家のネコたちの遊び道具として大好評なので、いくつかまとめて買ってくれば良かったと思った。

 ドッグタグ

米軍の兵士が首からぶら下げているドッグタグを同じ仕様で作ってくれるサービスを、宇宙系グッズのショップでやっていた。入れる文章は制限された文字数の中なら自由。この認識票は本来は戦死したときの身元確認用であり、首にぶら下げるのはあまり気分の良いものではないと思うのだが、アメリカ人の感性は異なるようで、ぽつぽつ売れていた。

 プラスチック成型機

4つの形からいずれかを選んで、1ドル入れると、目の前でプラスチックの粒からプラスチック成型のおもちゃを作ってくれる自動実演販売機。スペースシャトルを作ってみたが、形状はかなりシンプルで、幼児向けといったところ。接合部の密着が弱かったので、数日で裂けてきた。

 記録資料類

スーベニールブックは売っていなかった。タイタニック号の特別展の会場で購入したカタログ(A4判・写真主体)は、2冊で23.9ドルだった。

備考

 疲労度

BMと同じような広さだが、館内は複雑に入り組んでいて、全体の広さがすんなりと分からないので、絶望感はあまり感じなかった。しかし適当に歩いていたら1日では時間が足りなかった。まる2日あれば一通り見学できる、という規模。動線設定により観客の疲労度はかなり違うということが分かった。

 音声ガイド

音声ガイドは大人6ドル、子ども4ドル。日本語がなかったので利用しなかった。

 駐車場

MSICは地下駐車場を備えている。アメリカで地下駐車場と聞くと、それだけで少々恐ろしいイメージがあるが、ここの駐車場は照明が明るく、またあちこちに監視カメラが設置されているので、比較的安全なように見える。周辺が治安の良くない地帯であるので、防犯には気を使っているものと思われる。駐車料金は1日8ドルと良心的だった。

企画のネタとして

展示物の内容では、BMにはとうていかなわない。しかし演出の工夫や展示の着想は、SMICの方がはるかに上。「何を見せるか」「どう見せるか」について、SMICのスタッフはとてもよく企画を練り混んでいる。たいしたことがないモノでも、見せ方を工夫すれば、一気に展示としての魅力が上がるということが良く分かった。

SMICは、入場料・特別展・オムニマックス映画1本で、大人25ドル・子ども18ドル。この値段で、急ぎ足でも丸1日、ゆっくり歩けば丸2日で楽しめる。楽しさのクオリティもかなり高い。とすると、ここの2倍かそれ以上の入場料となるテーマパークは、なかなかつらいと思う。シカゴの近辺にはテーマパークが見あたらないが、面白い博物館との競合を避けている可能性がある。

ただしアメリカのテーマパーク密集地帯の西海岸は、エクスプロラトリウムをはじめとして面白い博物館がいくつも存在しており、ここでは博物館とテーマパークが共存している。リピーター獲得力ではテーマパークの方が強いので、テーマパーク側としては反復来場者が少ない博物館は、手強い相手とは思っていないのかもしれない。だとすると、シカゴ近辺にテーマパークがないのは、冬が厳しいという気候条件が主因であるのかもしれない。

参考資料 −−− タイタニック号ボーディングパス(複製)・オモテ面

参考資料 −−− タイタニック号ボーディングパス(複製)・ウラ面・解説コメント入り


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