ロール軸周りの静安定(07-12-25)

本項は第13回スカイスポーツシンポジウム発表論文の一部を補充・整理したものです。

重心が低い機体は安定と信じてライトプレーンで図の様な主翼を持ち上げた機体があります。紙飛行機でも右の図の様に機首と尾翼部分を下げた弓なりの胴体も見受けます。どちらも船や床に置かれた置物などで重心が高いと不安定なことからの類推などによる誤解と思われます。


模型飛行機の横安定は機体が横に傾くと横滑りを始め、横滑り→左右翼の迎角に差→左右翼の揚力に差→復元モーメントが発生して翼が元の位置に戻る
ことにより保たれます。

この復元モーメントを大きくする手段には上反角を大きくする方法と主翼を持ち上げて重心を下げる方法がありますが、以下それらの効果を比較します。
1 横滑り時の翼迎角
横滑り時の上反角のある翼の迎角を図4に示しました。翼を左後から見ています。薄色の三角は平常滑空時の翼央の迎角、右の濃い三角は横滑り時の右翼の迎角、左の濃く細い三角は同じく左翼の迎角です。

翼コード: c, 上半角: d, 迎角: a, 横滑り角: sとして(他の記号は図4参照)
h= c*sin(a), x=c*cos(a)*sin(s),
y=c*cos(a)*cos(s), hl=x*tan (d), hr=hl+h
横滑り時の右翼迎角: r=arctan(hr/y)
横滑り時の左翼迎角: l=arctan((h-hl)/y)
左右翼迎角差: r−l
の関係があるので
上半角: d=10度 迎角: a=6度 横滑り角: s=10度の場合
横滑り時の右翼迎角=7.847度
横滑り時の左翼迎角=4.325度
左右翼迎角差: r−l =3.522度
となります。
2 上反角増の効果
上反角10度の場合の横滑りによる左右翼迎角差は3.522度、上反角11度の場合は3.882度に増加します。復元モーメントは左右翼迎角差に比例するので上反角を10度から11度に増やした場合の復元モーメントの増加率は3.882/3.522
= 1.102つまり10.2%です。
一方、上反角10度と11度における投影翼面積の相違はcos (11度)/cos (10度) = 0.997
つまり僅かに0.3%、無視できる数字です。
上記の数字は横滑り角10度のばあいですが、横滑り角を5度で計算してもこの数字はほとんど変わりません。
3 高翼の効果
図で重心が翼央にある場合(重心1)のモーメントアームはlで復元モーメントはL*l、パイロン等により下に移動した重心2の場合はm-面とアームをl'とすると復元モーメントはL*l'。この差L*(l’− l)が低い重心の効果です(Lは揚力)。


主翼の翼央から揚力作用点までの距離: l = 12.5cm、重心1、重心2間距離: h = 1cm、上反角: d = 10度とすると
図からl' = l+h*sin (d)となるので
L*l'/(L*l') = (l+h*sin (d))/l = 1.014
つまり重心位置を1cm下げたことによる復元モーメントの増加は1.4%に過ぎません。
重心を1cm下げるには約2cmのパイロンが必要でしょう。これによる重量の増加、抵抗の増加、動力飛行時の頭上げ、更には重心位置から離れた主翼による縦・横の慣性モーメントの増加による静安定・動安定の実質低下など不利な要素がたくさんあります。ただ、パイロンの高さを適切に取れば水平尾翼を主翼の後流(wake)の外に置き安定性を向上できるとも言われています。
一方、上反角を1度増やした場合は復元モーメントが10%も増えるのにこの種の不利はまったくありません。横の安定性を向上させたいのなら、重心の低下ではなく上反角増を行うべきです。
続き:ロール軸周りの慣性モーメントの計算と総合評価

静安定と慣性モーメント
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