万恒河沙 巫女と似非探偵と怪人のいる処-和風ファンタジーと不条理小説


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ひとくいのかがみ/しんちゅうあそび

異人館U

さてさて、オテル・エトランジュの周りはどういうところ?
オテル・エトランジュに行くには、いまにも幽霊が立っていても不思議ではないような柳の木の横にある『傀儡堂』の横の細い石造りの細い坂道を下りて、坂道の下に並ぶは小さいが奇妙な商店街を通って五分程歩くとたどり着きます。途中にある商店街は商売気がないのか、いつ訪れても商店街はしんと静まり返っている上に、歩く人影もまばらである。石畳に影が伸びる。姿の見えない子供のはしゃぐ声。奥にはどこへ行き着くのか先の見えない何十にも連なる赤い鳥居。石畳。くすくす笑う少女の伸びる影。
ひとたびこの町に足を踏み入れると帰れなくなるらしいと、あるヒトが至極真面目な顔をして語っていた。

『傀儡堂』(骨董品商い)

町の入り口にあたる木造の小さな町屋風のお店は、一歩入ると店内は意外にも広い。ただし、迷宮のように古今東西の珍しい品物が分類わけもされず所狭しと雑然と並べられている様は、もしかしたら見るものを怯えさせるかもしれない。ゴシック調の舞台を象ったオルゴールに赤い靴。壷中人魚。どこで手に入れたのかも想像がつかないような物品。店の奥には、和洋折衷な喫茶室が設けられており、午後のお茶をいつでも楽しめるようになっている。黒檀の調度品に、屏風、硝子のランプシェード。この店の店主は黒田征四郎と黒田白雪と名乗る奇妙な双子の姉弟である。黒田征四郎は黒い丸眼鏡に黒い支那服姿。黒田白雪は白を基調とし、白いチャイナドレスに黒いレース長手袋に黒いブーツでアクセントをつけたふわふわした姿。話によると、この店の本当の持ち主はこの二人ではなく、別にいるらしい。それはもかく、二人はひなが一日お茶会開いては仕事そっちのけで愉しんでいる。たぶん、明日で世界が終わっても二人でお客を招待してのんびりお茶をしているに違いない。あー、やだやだ。

『葬儀屋のば−』(酒場)

蔵を改築したあやしげな名前のカクテルを飲ませるお店。(いや、無理に漏斗等で飲ませる訳ではないと思う)店主は燕尾服を来た「葬儀屋」と呼ばれる顔の見えない若い男。不思議な事に、彼の顔が解らなくても、誰もそれを不思議とは思っていないようである。是非一度、誰かにつっこんでもらいたいのだが、いつかその日は来るのだろうか。
そして、看板娘には、長いゆらゆらゆれる銀髪のシック調のヘッドドレスを付けた女中姿の可愛らしいが、その姿と反比例するかのように口の悪い少女が用意されている。彼女は『ギニョール』と呼ばれていて、その名の通り、まるで人形に見える少女である。因みに、夜な夜な乱痴気騒ぎをしているこの店内には、そこかしこに生きてる人形かとみまちがえるような人形がところせましと飾られている。噂によると、どうやら、時折この店では客が煙のように消えるらしい。
アモンリチャドーをもう一杯。

『ドクター・フ一・マンチュー』(中華料理屋)

この中華料理屋には、世界征服を夢見る青年と、金襴緞子のチャイナ服を着た凛々爛々と名乗る助手の少女がいる。実はこの店は意外や意外、味は天下一品のしろもので、彼の夢を知っている常連の客は是非とも青年の目論見が失敗することを日々祈っている。 なにはともあれ、いまのところ、青年が成功した話を聞いたことがないし、この先成功するとは思われない。しかし、店主は見果てぬ夢を見て毎日研鐙しているらしい。時折、夜明け頃に店主と凛々爛々が黒焦げ姿で帰って来るそうである。一体、どこのどいつと闘っているのだろう。

『清廉潔白探偵事務所』(探偵事務所)

外から見ると、無人の探偵事務所。古ぼけた応接セットがくすんだ硝子窓の向こうに見える。人気はまったくないのにも関わらず、稀に依頼人らしき人物が躊躇いながら硝子戸を開ける姿を見ることができる。オテル・エトランジュにある、『清廉潔白事務所』と何か関係あるのだろうか?事務所に入っていったはずの人物が、オテル・エトランジュからと出て行ったという話もある。『清廉潔白探偵事務所』を知る町の古老によると、元々青柳竜衛と名乗る前歴不明の洋行帰り人物が始めたものだと云うことである。青柳竜衛はジャック・ザ・リッパーが活躍していた倫敦から、符麗卿と云う名の人形のような美少女を連れて帰ってきて、少女を愉しませるために、怪奇事件専門の探偵事務所を始めたと云う噂である。いやはや、何とも困った理由である。また、この青柳竜衛と云う人物は、端正な優男で、泣かした女は数知れず、是非後ろから飛びげりを食らわせたくなるような人物だったらしい。『清廉潔白探偵事務所』はそんなところ。

『卵屋』(少女入り卵商い)

パステルピンクに、パステルブルー。砂糖菓子のような外観の可愛らしいお店を侮ってはいけません。店主の和服姿の美青年が商うは少女入りの卵。アルカイックスマイルを浮かべて、さあどうぞ。天まで伸びる棚の上には貴方が欲する、ありとあらゆる種類の少女が入った卵を取り揃えております。少女アリスに物語りのシュヘラザード、十二単の若紫と毒入りの赤い林檎を抱えた白雪姫に、貴方の夢の中の少女。各種よりどりみどりで揃っております。卵の中の少女を手に入れる方法は簡単。貴方が選んだ白い卵を貴方の欲する少女を思い抱きながら大事に抱えること一週間で卵は孵化いたします。
ただし、お気をつけあそばせ、孵化した少女に貴方が喰われませんように。おもしろいように、良く喰われるんですよ。そう云って、美青年は煙管の白い煙を吐き出した。美青年の背中には『廃棄品』と書かれた頭蓋骨の山。

『プライムショー稀書店』(稀書商い)

セピア色のお店。族を半ば被ったようなショーウインドウの硝子には『プライムショー稀書店』と仰々しく書かれ、雑貨品が雑然と並べてある。どうやら、この店は本だけではなく、雑貨品も売るらしい。しかし、ショーウインドウの商品に焦点を合わせようとすると、商品は逃げてしまうので実際には何が飾られているのかは不明である。店内に入ると、すぐに湿ったような昔の匂いがする。店主は気難しい金縁眼鏡をかけた中年の女性と奇妙な老人。中年の女性はひっつめ頭に、ショールを肩にかけた灰色のドレス姿。まるでミンチン先生を思い出させるかのような渋い顔をしている。客が現れるたびに無言で眉を聾めるはいつものこと。老人はぎょろっとした大きな瞳に、キョンシーのような恰好をして甲高い声で人懐こく話す。奇妙な店主達。このお店は、稀書店を名乗るだけあって、店内には見たことも聞いたこともない本が整然と並んでいる。時折、時計を持った忙しいそうな兎が現れるのでご注意を。

『怪奇誘拐王とゆかいな仲間たちの研究室』(犯罪実践研究所)

さて、お客様。この絵に描いたような研究室こそ誘拐王、実験王、解体王、埋葬王の四つ子が日々怪奇犯罪をいかにして巧妙な犯罪を実行できるか研究をしている場でございます。
お約束の予告状を美しき深窓の令嬢に出した上で正々堂々誘拐し、美しき深窓の令嬢をキラキラ光る尾びれを持つ人魚に改造する実験をし、人魚の深窓の令嬢に厭きたら、月蝕劇場にて美女解体ショーを行い、どこかの山奥に七人の小人のコスプレをして埋葬に行く。これが、彼らの基本的な生活です。ご興味のある方は是非、このノートに予約を入れてくださいませ。先日知り合いの少年探偵からとある娼館の美少女の誘拐の依頼がありましたものの、未だ予約の余裕がございます。ただし、美しき深窓の令嬢がいらっしゃるお宅に限ります。

『月蝕劇場』(劇場)

その夜月蝕劇場で見たバレエのオーロラ姫は格別の出来だった。観客は総立ちでプリマのカーテンコールを待ったが不思議なことに、幕の内側からプリマの美しい姿は二度と現れることはなかった。
その夜の公演に興奮醒めやらず友人と話ながら、いつものように『葬儀屋のば−』に行くと、バーのマスターが珍しい酒が手に入ったと教えてくれた。その名も『眠りの森の美女』。丁度良いと、私と友人が注文すると、出てきたのはオーロラ姫の格好をした人形が詰められている酒瓶。横軸色の液体にゆらゆらとゆれていた。
後で聞いた話だが、プリマが現れないのを不思議に思ったヒトが舞台の裏や楽屋に足を運んでみたが、プリマどころか、もぎり嬢までありとあらゆる劇場関係者が劇場から煙のようにいなくなっていたそうである。

『鳴神屋加排店』(喫茶店)

時の止まったような喫茶店。内部には小さな川が流れ、レトロちっくな調度品の数々。ボサノバが流れている。中には、本当に時間を忘れていつづけるお客もいるそうである。しかし、驚くなかれ実はここは不在のカフェなのである。いつカウベルを鳴らして店内に入っても、店には誰もいない。目を離した隙にいつのまにか、メニューや、香ばしい匂いがする加排が置かれている。水滴をまとったグラスに入ったメロンサイダーに、美味しそうな匂いが鼻腔を撲るホットサンドウィッチ。不思議なことにいつのまにか現れる飲み物や食べ物は、丁度メニュー選ぼうとしていたものばかり。お客の間では不在のマスターと親しまれていて、彼は異常な恥かしがり屋のサトリか、透明人間のサトリではないかと噂されている。はてさて、不在のマスターの正体は如何??
オテル・エトランジュの周りはこんなとこ。



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