万恒河沙巫女と似非探偵と怪人のいる処-和風ファンタジーと不条理小説


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ひとくいのかがみ/しんちゅうあそび

奇妙な日記-夏

七月七日
ささのはさーらさら。
今日は七夕。近所の葬儀屋のばーと言う名前のバーに行く。バーには、顔見知りの探偵と執事と見知らぬ男女がいた。どうやら男女は私が来る前から喧嘩をしていたらしい。二人ともそっぽを向いて口も利かない。探偵はにやにやと笑い、店の女の子は呆れ顔。見かねたバーのマスターが仲裁を試みるが無駄なこと。その内、二人は大きなかなづちをどこからともなく取りだし殴り合いを始めてしまった。二人の殴り合いが最高潮に達した時の事だった。ぱあん。と、音と光を立てて二人は星屑になってしまった。きらきらと光ってなかなな美しい光景だったが、これでは織女と牽牛ではなく、パンチとジュ−ディである。

七月三十一日
真夏の夜の事だった。あまりに寝苦しいので、夜の散歩に出ると夜空は黒いベルベットで覆われたかのように濃い暗闇に包まれていた。おかしい、何かがおかしいと首を傾げながら歩いていると、その内ロココ調の街灯の明かりが見えてきた。何だろうかと近づいてみると、街灯の横に何故か四メートル位の塀が孤独に建っていた。ハンプティ・ダンプティの塀。はっきり言って何の役に立っているのか見当もつかない。その塀の上で、ドレスアップをした土星の頭をした女と夜会服を着た月の頭の男がタンゴを踊っていた。だんす、 だんす。たんご、たんご。そのとき漸く何がおかしいのか氷解した。道理で夜空に月がいないはずである。何だか、割り切れないものを感じて、月に文句を言うと月はにやりと笑っただけだった。聞き分けのない男にむしょうに腹が立ったので、石を拾って月と土星に投げつけると、途端に全てがばぁんと破裂した。たんご、たんごは如何でしょう。

八月一日
寝苦しい夜のことだった。血の滴る悪夢は如何?ひとつで1ぺにい、二つで1ぺにい。月夜の夜に悪夢売りと名乗る行商人が天秤を背負ってやってきた。ちりん、ちりん。天秤の竿の先にあるガラス製の風鈴が涼やかな音を立てる。旦那さん、おひとつ如何かねと、縁側に腰を落ち着けた悪夢売りは言うと、次々と掌大の固形を並べてみせた。これは切り裂きジャックの夢、これは亀姫の夢。これは口裂け女の夢。ヒトツデ1ぺニィ。これは貴方の夢。悪夢売りから買った悪夢を月光密造酒が入ったグラスに入れると、ぷくぷく と泡を出して溶けてなくなってしまった。悪夢入りの月光密造酒で乾杯。

八月三十一日
冷やし中華始めました。
ソノ日、私は急にかき氷が食べたくなって、町に出た。白い路面に、絵に描いたような入道雲が浮かぶ青い空。岩にしみいる蝉の声。しかし、今日に限って馴染みの店は休業中。 こんなにもかき氷日和だと言うのに、休業中とは何たることか。恨めしく思いながら、かき氷屋の新規開拓をするために私は歩きだした。暫く歩いていると、私は『冷やし中華始めました』と書かれたポスターがそこら中に貼られていることに気がついた。アールデコ調のヴァイオレットの優雅なドレスとトーク帽のモガ風の美人がにこやかに何故か冷やし 中華を食べているポスターだった。あまりのとんちんかんな絵に目を丸くしていると、目 の前をとことことロンパース姿の赤ん坊が歩いて来た。赤ん坊の手には、糊の入った缶と、 丸めた紙。赤ん坊は壁に空いた空間を見つけると、嬉々としてぺたぺたとポスターをを赤 ん坊とは思えない程手際良く張り出したのであった。増殖する違和感のあるにこやかなポ スター。私が呆然とその光景を眺めていることに気がついた赤ん坊はくるりと振りかえる と、こう言った。「ぼくは冷やし中華の精でしゅ」
そして、煙のように赤ん坊は消えてしまった。はてさてあれは何だったのだろう。暑い日のことだった。


足穂風短編。元々は携帯で250文字内で書いてました。



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