万恒河沙 巫女と似非探偵と怪人のいる処-和風ファンタジーと不条理小説


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ひとくいのかがみ/しんちゅうあそび

解体少女人形箱。

私は常々少女を解体したいと思っていた。けだるい星の瞳に、頬に影落とすふっさりと長い睫を持つ顔。しなやかで、ほっそりとした手足、まだ未成熟で痛々しい胴。
これらを、ひとつひとつバラバラにして箱詰めにしたらどんなに良かろうかと考えていたのである。ここで何点か問題がある。一番の問題は本物の少女を解体するわけにはいかないことであった。さすがに、私も犯罪者にはなりたくない。夢は夢に過ぎないと思っていた。
そのような夢想をたまたま入った『葬儀屋のば−』と言う名前の酒場で語ったところ、夜会服を着たバーの顔がはっきりと判別がつかないマスターに、そのような夢をお持ちならばと『卵屋』と言う店を紹介してもらった。マスターの話によると、『卵屋』には卵に入った少女に似た生物を売っているらしい。
大小さまざまのナイフをつきさしても血は出ず、腐りもしない解体するにはおあつらえの夢の少女人形。ただ普通の人形と違うところは、喜怒哀楽があり、鳥のように美しい声を持っているところだそうだ。少女らは生き人形と呼ばれ、愛玩動物のように愛好されているらしい。私は半信半疑で暫く店に足を運ぶのを躊躇っていたが、どうしても誘惑に耐え切れずある日に『卵屋』に足を運んでみた。『卵屋』はまるでお菓子の家のようなピンクとブルーに満ち溢れた外観を持つ変なお店だった。因みに、店主は女性かと見紛うような美青年だった。美青年は私の話を聞くと、店の奥からダチョウの卵位の大きさをした卵を二つ恭しく金色の房飾りがついた別珍のクッションに載せてきた。
真珠で出来たような純白の卵。青年の説明では、二つの卵は『白鳥姫と黒鳥姫の卵』と言い、この卵を一週間暖めれば白銀の髪と黒髪の美しい少女が孵ると言う話だった。勿論、『解体ができる』少女であることは言うまでもない。
私は休暇を取り、青年の説明通り一週間卵たちを暖めた。傍らには、少女を解体するための道具一式と、少女たちを詰めるために用意した特別製の螺細の箱。少女を解体したら、少女の残骸をキャンディのように、ケーキのように詰めるのである。私は想像しただけで、わくわくとしたのは言うまでもない。卵を暖め始めてから丁度一週間目の深夜。
ぴしぴしぴと真珠のような卵の殻に皹が入り始めた。ぴしぴしぴし。ぴしぴしぴし。
私は期待に胸を躍らせながら、卵が孵化するのを待った。そして、少女が孵化をした。乳白色をしたまるで傷のないアスラバスターのような肌に、銀と黒の髪。少女たちの瞳はひとりは右目が青と左目が銀で、もうひとりが右目が銀で左目が青と言うオッドアイを持っていた。
私は陶然としながら、少女たちを見つめる。
少女たちはこの上もなく美しかった。私は夢に描いた通り、少女達を解体しようと彼女達に近寄った。しかし、少女達は私を見てにたりと笑ったのである。
美しい顔には不似合いなグロテクスな笑顔だった。そして、少女達はすばやく傍らに用意された鋏や鋸を持って私に襲い掛かったのであった。そして、私は少女達に解体されてしまったのである。
どうやら、『解体のできる少女』は私が解体が可能ではなく、少女達が私の解体を行なうことだったらしい。
少女達に用意した箱に詰められながら、私は『ああ』と納得をした。まあ、こうなってしまったら、どちらでも良いことである。



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